第16話 酒の飲み過ぎには要注意

 デモンラビットの角は適正な処理をしたら使えるみたいなので虎徹の工房に置いて来た。素材にした魔獣強さに応じて武具も強力な物になるらしいので結構期待している。


 さて…これからどうするか…

 武具が出来るのは明日以降だし、今日はダンジョンに入れない。奪われたアイテムも必要な物は用意してくれるって話だし…久しぶりに外食でもするか。野宿が続いたし、殆ど雑草食べて過ごしてたからなぁ。金も入ったし少しくらい贅沢してもいいだろ。


 虎徹の店を出た俺は探索者に人気の酒場に行く事にした。


 飲食店にしては珍しく危険なダンジョン付近にある探索者用の酒場【バッカスの遣い】

 質より量をモットーとしており、安い・早い・多いで有名だ。味はまあまあだが馬鹿騒ぎするにはうってつけの店であり、血の気が多く飯の味などわからない探索者に好評である。


 俺は馬鹿騒ぎが好きなわけでも飯の味がわからないわけでもないが、金が無いので外食する時はこの店を利用していた。


 まだ昼間なので客がいる様子はない。それもその筈。昼間は探索者がダンジョンに潜っている。一般人が来る店ではないのでランチタイムは全く人気ひとけがなくて当然だ。


 店の扉を開け店内へ入ると客は片手で数えられる程度しかいない。

 この店の主人の一人娘兼看板娘でもある榎本美月えのもとみづきが俺の入店に気付き、こちらへと駆け寄って来た。


「草介さん、お久しぶりです。また来て下さったんですね。」


「美月ちゃん久しぶり。今日はちょっと収入があったからね。外食でもしようと思って来たんだ。」


 美月ちゃんの事は彼女が12歳の頃から知っている。俺がこの街に来たばかりで金もなく困っていると美月ちゃんのお父さんである店主がタダ飯を食わせてくれた。

 勿論、そのあとお金はきっちり返したしそれ以降は客として来ているが子供の頃から店によく来るお兄さんという感じで美月ちゃんは俺に懐いてくれた。今年、学校を卒業したそうだがこの店の手伝いをする事を選んだみたいだ。


「この店を選んでくれてありがとうございます。私も草介さんが来てくれて嬉しいです。いつも通りでいいですか?」


 常連客である為、俺が注文するメニューは美月ちゃんに覚えられてる。

 彼女は水を置くと厨房へそそくさと入って行った。


 それにしても美月ちゃん綺麗になったなぁ。黒髪のボブヘアに凛とした目。子供の頃から知っている身としては随分大人っぽくなった感じがする。


「なに人の娘見てニヤニヤしてやがるんだ。」


 髭面強面の男性が音を立てて俺の前にビールを置く。

 榎本滝蔵えのもとたきぞう、この店の店主であり、美月ちゃんの父親だ。


「いや〜綺麗になったもんだなぁって思いまして。」


「よくも俺の前でそんなセリフが言えたもんだなあ。出禁にしてやろうか。」


 そう呟いた店主の頭に拳骨が降り注ぐ。


「お客様にそんな事言うもんじゃないよ。ごめんなさいねえ。この人、口が悪いから。」


 榎本茜えのもとあかね、美月ちゃんの母親。人妻とは思えない若さを保っている。茜さんがキッチンにいる時はご飯が美味しい。


「でもそんなに美月を気に入ってくれてるならお嫁に貰ってくれていいのよ。草介くんなら安心だわ。」


「ハハハ、俺なんて稼ぎもないし6個も歳上なんですよ。嬉しいけど美月ちゃんは俺の事なんてお兄さんくらいにしか思ってません。」


 茜さんの冗談を軽く受け流す。このやり取りも何回目だろう。茜さんは俺と会う度、美月ちゃんを勧めてくる。可愛いとは思うしあんな娘と本当に結婚できるなら嬉しいが釣り合わな過ぎて冗談に決まっている。


「冗談じゃないのにねぇ。」


 茜さんが何か呟くが声が小さくてよく聞き取れない。


 その後は美月ちゃんが戻って来て二人揃って茜さんに揶揄われたりした。酒の飲み過ぎであまり記憶にないが顔を赤く染めた美月ちゃんが可愛かった事だけは覚えている。


 いつの間にか俺は自宅のベッドで眠っていた。


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