アニマ教の魔女達

絶華望(たちばなのぞむ)

赤熊人と空地人

 赤熊人、外見的特徴は赤髪、赤目、大柄、筋肉質、平均身長250センチメートル、平均体重300キログラムの戦闘民族、密林で独自の村を作り、狩猟を生業としていた。その赤熊人は空地人そらちびとと戦争していた。


 空地人、外見的特徴は金髪、碧眼、細身、背中に生えた翼、平均身長170センチメートル、平均体重50キログラムのならず者、魔法の力で浮遊している空地そらちに城を持ち、略奪を生業とする空賊だった。主な商品は赤熊人の奴隷。奴隷を仕入れるために赤熊人の集落を襲うのだった。

 宇宙人がこの星に来る前までは、赤熊人と空地人の戦力は拮抗していた。赤熊人の子供をさらうために、犠牲も出ていた。だが、宇宙人に奴隷を売って手に入れた半重力装置搭載型ホバーバイクとアサルトライフルが戦力の均衡を破った。

 空地人は翼があるので元々飛べるのだが、バイクによってさらに高速で空を移動できるようになった。それと、遠距離から安全にアサルトライフルで赤熊人の戦士たちを制圧できるようになったため、一方的に略奪が出来るようになった。


「おい、見ろよ。あいつら、また無駄な踊りを踊るようだぜ」

 空地人のモヒカンの男略奪者が、赤熊人の戦士たちのウォークライを馬鹿にしていた。

「本当に馬鹿なやつらだよ。こっちをビビらせようにも、何度もやってたら意味がねぇのにな」

 空地人の女略奪者が、同意した。長い金髪の髪を完全なモヒカンにして、鶏のトサカのような頭をしていた。ただし、顔自体は整っており、ちゃんとすれば美人に見える顔だった。

「そう笑ってやるなヴァラ。あいつらは真面目にやってんだから……。プッ、ギャハハハハ」

 空地人の首領バラクは、彫刻のように整った顔で、長く伸ばした金髪をかき上げながら腹を抱えて笑っていた。 

「あんたが笑ってんじゃんかよ~。バラク」

「すまない。くっくっく、あんまりも殺意に満ちた目が怖すぎて笑っちまった」

「あはははは、確かに、あんなに殺意をもってるのに、こっちには届かないもんね~」

 ヴァラはバラクに艶っぽく寄りかかって同意した。バラクもヴァラの腰に手をまわし、自然な流れでキスをした。

「さて、やつらの見世物も終わった様だし、お仕事の時間だ。今日も頼むぜヴァラ」

「ええ、任せてバラク。あの面倒な勇者は、うちが遊んどくから、その隙に戦利品を回収してよね」

「ああ、任せとけ。今回も大収穫間違いなしだ。おい!野郎ども行くぞ~!」

「「「ひゃっは~」」」


 バラクの合図で略奪者たちは一斉に空地の要塞からバイクを走らせ空をかけて赤熊人の集落に殺到した。その数は20だった。頭のバラク以外は全員がモヒカンで男女比は6対4だった。武器は全員アサルトライフル、防具は化学繊維で出来た防刃ベストを着用していた。


 一方、迎え撃つ赤熊人の戦士たちは24人、数ではわずかに有利だが、赤熊人の戦士たちが持つ武器は剣や槍だった。赤熊人の戦士たちは村を背に横陣を敷いていた。

 全員髪型はスキンヘッドで、右側頭部に熊を意匠した赤い刺青をしていた。戦士は全員男だった。防具は銀色の獣の皮をなめして作った一枚の布を羽織っていた。


「野郎ども!オスの数が少ない。出来るだけ殺すな、次の収穫に響く!ガキは5人連れてこい性別は何でもいい、メスは極力殺すな!抵抗する場合は手足を撃て!いいな!」

「「「了解ボス」」」

 空地人は、空中からアサルトライフルで戦士たちの脚を狙って射撃した。

「ぐあ」「ぎゃあ」「ふぐ」

 戦士たちは、脚を負傷し動けなくなる。だが、2人だけ立っている戦士がいた。1人はボルド、赤熊人の勇者(35歳男)、もう一人はジルド、赤熊人の元勇者で現村長(50歳男)が立っていた。

 2人とも身長は3メートルを越える巨体で、脚に受けた銃弾は分厚い筋肉で防いでいた。


「やはりあいつらが残ったか、ヴァラ若い方を頼む、俺は年老いた方を相手する」

「了解ボス」

 ヴァラとバラクがバイクをボルドとジルドに向けて走らせようとした時、一人の若い男略奪者が先走った。

「頭!姉御!あいつらは俺に任せてくれよ。あんな奴ら簡単に殺せる」

「おい、バカ、ヤメロ!お前の敵う相手じゃない!」

 バラクの静止も聞かずに、男略奪者はボルドに接近しながらアサルトライフルを撃ち続けた。ボルドは銃撃を刃渡り3メートルの巨大なクレイモアを盾にして防ぎ、自分の間合いになるのを待った。

 バイクとの距離が10メートルになった時、ボルドは両足に力を込めてジャンプした。地面が陥没し、ボルドはバイクと同じ高さに到達した。腹部に銃弾を受けるが、赤熊人の戦士が身に着けている毛皮はシルバーウルフの毛皮だった。その毛皮は銃弾も斬撃も通さない頑丈なものだった。

 だが、銃弾の衝撃は腹部に伝わっているが、ボルドは意に介さずにジャンプしたと同時に振り上げたクレイモアを垂直に振り下ろした。男略奪者は両断され、バイクは地面に叩き落とされた。


 バラクは「だから、止めとけって言ったのに馬鹿だな~(うんざり)」と言い。ヴァラは「使えないやつだったけど、最後まで使えなかったわね(呆れ)」と言った。

「全くだ。あのバイクいくらすると思ってんだよ。死ぬなら一人で死ねよクズが!」

 2人とも仲間の死をみじんも悲しんでいなかった。

「は~あ~。あのバイクまだ使えるかもしれないが、地上に降り立ったらあいつらの土俵に乗る事になる。俺と君以外はあの2人に対抗できない。人はいくら死んでも構わないがバイクをこれ以上失いたくないから、諦めてあいつらと遊ぶぞ」

「了解ダーリン(ハート)」


 ヴァラはボルドにバラクはジルドに向かってバイクを走らせ、それぞれ相手の右側をすり抜けるように走らせた。この時、2人ともアサルトライフルは撃たずに、背中の翼を広げて突進していた。

 2人の翼には刃が取り付けてあり、その刃で相手を切り裂くつもりで駆け抜けた。だが、ボルドとジルドはクレイモアを盾にして翼の斬撃を受流した。だが、クレイモアに刃こぼれが生じた。


「やっぱしぶといね~。他の赤熊人は、だいたいこれで仕留められるんだけどね~」

「仕方ない、いつも通り時間稼ぎだ。ヴァラ」

「了解」

 バラクとヴァラはバイクを自動操縦モードに切り替え上空で旋回するモードにした。そして、バイクから飛び降り、地上に舞い降りた。

「今日こそは、仕留める!」

 ボルドはクレイモアを正眼に構えてヴァラに対峙した。

「お主の略奪もここまでだ」

 ジルドもクレイモアを正眼に構えてバラクと対峙した。

「やれるもんならやってみな!」

 ヴァラは、短剣を両手に持ち逆手に構えてボルドに答えた。

「もう何度も聞いたけど、お前たちは獲物、そして、俺たちは狩人、奪われる運命は変えられない」

 4人は何度も戦ってきた。そして、勝敗はいつも同じ引き分けだった。


 ボルドとヴァラ、ジルドとバラクの戦いは、ほとんど同じ経緯をたどった。ボルドとジルドは、防御を捨ててクレイモアを縦横無尽に振るい。一撃当たればヴァラとバラクは即死する攻撃を出し続け、ヴァラとバラクは攻撃を避け続け、隙を見つけては一撃を入れていた。しかし、ボルドとジルドに致命的なダメージは負わせれなかった。だが、ヴァラとバラクの狙いは時間稼ぎなので、それで問題なかった。

 村に略奪に行っていた者たちが戻ると、ヴァラとバラクは翼で空に舞い上がりバイクに乗った。そして、ヴァラはボルドにバイクで突撃を敢行した。これには狙いがあった。この時、ヴァラはバイクの半重力装置を一時的にOFFにして、質量をもって落下しつつ体当たりを行ったのだ。これは、ボルドがクレイモアでバイク毎両断する事を確信しての突撃だった。

 ヴァラの読み通り、ボルドは大上段からヴァラとバイクを垂直に切り裂割くためにクレイモアを垂直に振り下ろした。ヴァラはバイクをウィリーさせてバイクのカウルでクレイモアを受けた。その瞬間、ボルドのクレイモアは真っ二つに折れた。

「ざまぁ!来年までに直しておくんだな、じゃないと次は死ぬ事になるぜ~(ニチャー)」

 ヴァラは、最後に嫌がらせをして、帰って行った。


 ボルドとジルドが戦っている時、赤熊人の村では略奪が行われていた。略奪者たちは、家の中で身を潜めている子供たちを見つけ出し、引きずり出して縄で拘束しバイクに乗せていた。そこへ1人の赤熊人の少年(15歳)が刃渡り2メートルのクレイモアを持って、隠れていた家から飛び出した。

「待ちなさい!ソルド!」

 少年を匿っていた女性の悲痛な叫びが響く。

「うあああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 ソルドは雄たけびを上げて、略奪者に切りかかった。ソルドの狙いは正確で略奪者を頭部から真っ二つに切り裂いた。

「なんだあいつ!」「戦士の生き残りか!」「いや、まだ身長2メートルぐらいだ。それに髪を剃ってないから子供だ」「なるほど、戦士になる前のガキか」「何やられてんだよ?」「まあ、不意打ちだったし、仕方ねぇんじゃね?」「生け捕りは?」「やりたきゃやってみろよ」「嫌だよ。死にたくねぇし」「じゃ、決まりだな」「銃殺刑だ」

 最後の略奪者の言葉で、ソルドに向けて一斉射撃が行われた。ソルドはなす術もなく、銃弾の雨を受けて絶命した。

「どうするよ?」「1人殺しちまったし、今年は4人で良いじゃね?」「頭、怒るかな?」「いや、アレを無傷で捕らえるのは無理でしょ」「バイクを持って帰った方が喜ぶって」「そういや、あの馬鹿特攻してたな」「じゃあ、決まりだ。あの馬鹿のバイク回収して4人連れてきゃ問題ないだろ?」「賛成」


 空地人が退却し、ボルドが村に戻った時、そこにはソルドの死体があった。

「どうして、こんなことに……」

 ボルドは、ソルドの死体を前に膝をついてうなだれて居た。

「ごめんなさい。ボルド様。ソルド様をお止めしたのですが、ここで戦わねば戦士ではないと言われて……」

「馬鹿が……。成人の義を終え、シルバーウルフの毛皮をまとえば、もっと長く生きれたものを……」

 この日、ボルドは全てを失った。妻は数年前にソルドを守るために、そして残された家族、自分の後を継ぐ予定だった最愛の息子ソルドは、この日、成人の儀式を待たずして戦死した。

「レッドベアよ!どうして我らをお救いくださらないのです!」

 ボルドの神への問いかけにジルドが答えた。

「我らが弱いからだ」

「うおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~」

 ボルドの慟哭は、空しく空に響き渡るだけだった。

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