第104話 進軍開始


「……! あ、あの方達は……!」


「も、もしかして……『スターストリーム』の……」


「天星祐也様!?」


「極級探索者……!」


 メギド前は大変騒がしかった。

 現在前線を担っている上級探索者達に物資を運ぶ下級、中級探索者たちは、新たに訪れた一行を見て思わず呆然とする。


 日本最強である極級探索者、天星裕也率いる『スターストリーム』の顔役である裕也さんと有紗さんコンビが先頭に歩き、その後ろには日本各地から集まってきた超級探索者たちが。


「あれって……!」


「私立探索者高校の四大学園長だ!!」


「まさか対抗戦以外で揃ってるところが見られるなんて……」


 更に続くのは、大阪、ひいては日本を代表する探索者学園の四大学園長。


「今から私たちが地上の治安維持は受け持つ! 手が空いたものはすぐに救助班に回れ!」


 滝上学園長が第一学園長に昇格したとはいえ、十年以上も第一学園長の座についていた柏田学園長はこういう時の判断が早く、カリスマ性も高いな。

 柏田学園長の号令で、地上にいた探索者たちはあわただしく動き出した。


 そして……


「おい! その剣ぶつかるって!」


「……私じゃない。蓮がぶつかってくるだけ」


「はあ!? そもそも大剣揺らして歩いてんじゃねぇよ!」


「お前らさっさと歩けよ遅れてるぞ……」


 俺たちはぽつりと遅れていた。

 主に蓮と美穂の喧嘩のせいで。


(いっつも喧嘩してんだよなぁあの二人……流石“神童”と“悪童”)


「あ、あれ!!」


「し、“神童”……と“悪童”……!」


「“革命児”もいるぞ!!」


 辺りの探索者たちは、通常あり得ないメンバーの集合に現状ダンジョンブレイクを忘れて色めき立つ。


「あの三人がパーティを組んだって噂は本当だったのか……」


「すげぇな……でもなんか喧嘩してね?」


「お前ら、いい加減に行くぞ!」


 俺たちが遅れている間、裕也さんたちは入り口で待っていてくれた。

 人懐っこい“雪鬼”勝瑞さんは集まって来た下級探索者たちにニコニコと手を振っている。


「お前達! 遊んでいる暇はないぞ! きびきびと動け!」


「「「は、はい!」」」


 滝上学園長の叱責で、集まっていた探索者たちが散り散りに走り出した。


「よし! それじゃあ、早速ダンジョンに潜っていこうと思う。千縁君たち、準備はいいかい?」


「「「はい」」」


 俺たちが合流すると、裕也さんが武器を取り出して振り返る。


「それじゃあ、いくぞ! 気を引き締めてな!」


 そうして下級探索者たちの注目の中、俺たちはブレイク中のダンジョンメギドへと足を踏み入れていくのだった。



~~~~~



「あ、あれ!」


「裕也さんだ!!」


「す、すげぇ……最上級探索者たちがこんなに……」


 ダンジョンに入ると、しばらく誰もいない階層が続き、二九階層に着いた頃ようやく人の声が聞こえてきた。


「耐久ご苦労! で、今進行度はどんな感じ?」


「は、はい! 今は三十一です!」


 進行度三十一……事前の説明に当てはめれば、三十一階層のモンスターが地上目掛けて上がってきていることになる。

 と言っても、先に潜っていた上級探索者たちは既に侵攻に向かって二十九階層降りているわけだから、ここから見て二つ下のモンスターが登ってきているという事だ。


「ふんふん……今回は何層まで上がってくるのか……」


「下級ダンジョンブレイクの時と同じだとすれば、平均で半分ほどがブレイクしておりますな。だから……四十くらいまでくると考えておいたほうがよいでしょうな」


 裕也さんの呟きに、最年長超級探索者である水魔法使い、濱田誠一はまだせいいちさんが律儀に答える。


「まあ、そうだよなぁ……四十って言ったら俺もまだ行ったことない深さだぜ? 今の俺なら四十くらい余裕だと思うけど」


「裕也さんが前にメギドに潜った時はもう一年ほど前ですもんね。私たちは鯨ダンジョンでかなり実力を上げてきてますので」


 裕也さんの言葉に、有紗さんが補足を入れる。

 確かに、最近テレビでは鯨ダンジョンの話がよく出ていたな。


 なんなら、あの日、俺の家にダンジョンが出来た時に見たテレビ番組でも裕也さんの鯨ダンジョン記録更新インタビューをやっていた気がする。


(そっか、公式では最高到達層がまだ38階層だったな、ここメギド


「ま、裕也さんがいるなら安心だな! な、千縁君?」


「はぁ、まぁ、そうですね。でもダンジョンブレイクでは何が起きるかわかりませんよ?」


 こちらには勝瑞さんが寄ってきた。

 パーティメンバーに超級は他にいないので、『アレクシスの牙』からは一人の身の参加だ。


「おお、いい心がけだね、流石! それにしても、千縁君のパーティは皆参加なんて、ほんとに凄まじいね。外国でもなかなかこんなパーティはないよ」


「まぁそうでしょうね……ありがとうございます」


 勝瑞さんが褒めてくれるけど、確かにその通りだ。

 先月蓮も超級探索者に昇格したし、元々超級だった美穂と俺を合わせれば三人の超級探索者がいるパーティとなる。

 それに加え、その全員が未成年。


 こんなパーティは世界を見ても存在しないだろう。

 そもそも学生で超級以上の探索者が世界に五人といない。


(つか、正確に言えばパーティ欠損状態なんだよな……パーティの推奨人数は五人だから……)


 でも、他の奴をパーティに入れるつもりはないけどな。

 俺がそう考えていたその時、突然後ろから肩を叩かれる。


「……千縁」


「ん? どうした、美穂?」


 近寄ってきた美穂は何かを言おうとして、一瞬ためらい、その言葉を飲み込んだ。


「んん……なんでもない」


「意味わからんだろ。まぁなんもないならいいけど」


 何かを言おうとして、やっぱりやめた、といった風に見えたが、美穂は自分から世間話や雑談を振ってくる性格じゃない。

 きっと何か用事があったはずだが……


(うーん、まぁいいか)


 ここでいきなり重要なことを言うとは思えないし、まぁ大した用事ではなかったんだろう。だから言葉を飲み込んだとか。


(いや、なんか変だな……)


「……よし! 引き継ぎご苦労! ここからは俺たちに任せてくれ!」


「私たちが必ず、このダンジョンブレイクを治めてきますからね」


「は、はい! 日本を、お願いします!!」


 ついに、用意ができたようだ。


 日本初の中級ダンジョンブレイク鎮圧作戦が、始まる────

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