第101話 収束


「あっ千縁君……と、悠大君!」


「突然飛び出してすみません。でも、一絺さんの想像通りでしたよ。解決しました」


「迷惑かけてすみませんでした!!」


 悠大と共に一絺さんの家に戻ると、優香と一絺さんは互いに座って紅茶を飲んでいた。


(流石に喧嘩はしなかったか……?)


「いや、大丈夫だ。無事でよかった」


(おかげで、千縁君と約束もできたからな……)


「……え?」


 まただ。

 フッと、頭の中に響く声。


 これはの……


「と、とにかく、すみませんでした!」


「悠大。とりあえず母さんの様態を見に行ったほうがいいんじゃないか?」


「あ、ああ……失礼しました!!」


 俺の言葉に、悠大は慌てて出ていく。


「あっちょっ!?」


「で……優香」


「!! な、なに?」


 優香はビクッ、と肩を跳ねさせ、半分だけこちらに顔を向けた。


「残る一人……陽菜てやつ。どうする?」


「えっ??」


「なんで驚いてんだよ。優香を傷つけたやつはまだ残ってるだろ」


「陽菜……ちゃんは……」


 優香が表情を曇らせる。

 昔共に遊び笑いあった記憶が思い出されてしまうのだろう。


「優香がいいなら、俺は……」


「……」


 優香が、無言で唇を噛んだ。


(私は……それでも……)


「それでも?」


「……!? そ、それでも……」


 優香は、グッと拳を握り締めて、零した。


「……ちよ君に、任せる……」


「そっか」


 結局、優香は決め兼ねた。

 でも、流石に乙女心の分からん俺でも、これは理解できる。


 かつての親友に、「許さない」なんて言えないよな。


(でも、許す訳にも……って感じだろ。間違いない)


「じゃあ……もう思い出すのはやめにしなよ」


「……でもっ!」


 優香は、俯いたまま、呟く。


「殺さ……ないで……」


「……分かった」


 その言葉に、俺はそれだけ返し、家を後にした。


「…………」


 今は何も、言われたくないだろうから。



~~~~~



「はぁ~もう、まじでだるいわ~」


「ほんとほんと! 事務所潰れるとかそんなの有り~!? 警備くらいちゃんとしといてほしいわ~まじで! ねえ、陽菜ちゃん?」


「…………」


 とある中心地協会近くのレストランにて。

 元寺上グループ所属の陽菜と取り巻き二人の少女は、休日を満喫していた。


「どいつもこいつも邪魔ばっか……」


「まあまあ、元はと言えば優香ちゃんが悪いんでしょ~?」


「そうそう! マネージャーも言ってたじゃん! 『社長によると、元は優香の方だけ誘うつもりだった。それを陽菜ちゃんも入れることになったそうだ』って!」


 下級探索者取り巻きの二人が、機嫌を取るように陽菜に話しかける。


「自慢したかったんだろうね~」


「す~ぐマウント取りたがるのはほんっと酷いよねぇ~」


 取り巻きの一人がそう言った、その瞬間。

 レストランが暗黒に包まれる。


「キャアア!?」


「なっなに!?」


 困惑する

 どうやら照明が落ちたらしい。


 探索者と言っても下級探索者の二人は、突然の暗闇に怯えの声をあげる。

 しかし、それよりも腰を抜かしたのは一般人陽菜だ。


(なっなに……!? それに、なんだか人気がなさすぎるような……)


 ジュパンッ!! と不吉な音が鳴る。


「……?」


 陽菜がおそるおそる後ろを向くと、そこには──


「ヒッ!!!!」


 生首変わり果てた取り巻きの姿があった。


 血の雨が陽菜の頬を照らす。


「や、やめて!? なんでこんなこ──」


「!? 果歩!?!?」


 ジュパンッ!!

 

 陽菜が後ろで聞こえた友達の声に振り返れば、見えるのは宙を舞う生首友達だったもの

 一般人の陽菜には、何が何だかわからず、ただ脳内の許容量を超えて発狂してしまう。


「きゃ、きゃああああああああああ!!!!!」


「【黙れ静かにしろ】」


 首筋に冷たい感触。

 陽菜は気づけば、何者かによって、光すら呑み込む漆黒のナイフを首筋に当てられていた。


「ヒィッ!!」


「……今更被害者面されても意味不明だけど……優香の頼みだからな。命は奪わない」


「お前の……、?」


 陽菜の言葉に、何者かは鼻を鳴らして答えた。


「今すぐどこか遠く……海外にでも行くんだな。出会ったときには即座に殺す」


「ヒッ……! な、なんで……」


「……なんでだと?」


 何者かは【憑依】を解き、その存在を顕わにする。

 “革命児”、宝晶千縁だ。


「……!?」


「それを本気で言ってるならテメェは飛んだイカレ野郎だ!!」


「うぐっ!? ガッ……!!」


 千縁が突き飛ばしたことにより、陽菜の体が宙を舞い、叩きつけられる。

 比較的柔らかなソファに激突したとは到底思えない程の衝撃が、陽菜を襲った。


「ゲホッ……カハッ!!」


「いい加減にしとけよ! どの口でほざいてる! 先に優香に手を出したのはお前だろうが!!」


「……」


 血を吐く陽菜に、千縁は激昂する。


「勝手に勘違いして、勝手に嫉妬して……馬鹿じゃねぇのか!?」


「うぐっ……ハッ、ハッ……!」


 千縁は更に、倒れこんだ陽菜の胸ぐらをつかんで持ち上げた。


「うっ……!」


「正直テメェみたいな


 千縁の眼が、薄ら染まっていく。


「約束だから生かしといてやる! だから……死にたくなければ今すぐ黙ってここから出てけ!!」


「あっ……うぁっ!!」


 千縁に投げ飛ばされた陽菜は、恐怖で背筋も凍る中、今すぐ出ていかなければ本当に殺されると思い、地を這って店を出る。


「……【解除】」


 それを見た千縁は、【憑依】を解除しようとして……はたと気が付いた。


「……? あれ、今俺【憑依】使ってなかったか」



~~~~~



「……終わったか」


「はい。協力ありがとうございます」


 俺は店裏にて、協会長である海原真さんと合流する。


「まぁ、その……無事に終わってよかった。お前がいきなり『探索者名簿の名前って消しゴムで消せますか?』なんて言い出すからなにかと……」


「そんなことより、は?」


「あ、ああ。しっかりと死亡処理した。犯罪なら関われんが、一般人を瀕死に追い込むような犯罪探索者は元々殺してもいいってなってるからな。そのくらい極端にいかなきゃ探索者の犯罪が増えすぎるし……」


 俺の急かすような言葉に、協会長は少したじろぎつつ言う。


「ていうか、なんか宝晶、変わったか? そんな雰囲気の奴じゃなかった気が……」


「変わらない人間なんて逆にいます? 俺はそんなに変わってない気もしますけど」


 それにしても、協会長ともあろう人が直接ついてくるなんて、どういう事だろう?

 協会長の言う通り別に犯罪というわけでもなく、ただ普通事後処理なのを、面倒になるから事前に伝えておいたってだけなのに……


 最初は俺の信頼なさすぎか? と思ったが、これは何やらありそうな予感がする。


「……なにか、分かってるみたいだな。ふぅ……よし! いつまでも腰引けたままじゃだめだ!」


「??」


 協会長は何かを察している俺を見て、一度大きく息を吐くと、何かを決心したのか、改めて俺の方へ向き直り──バッと頭を下げた。


「……!?」


「宝晶千縁!! メギドがダンジョンブレイクした!! 救援を頼みたい!!」


 協会長はそう言って、銀に煌めく超級探索者証を渡してきたのだった。
















​───────​───────​─────

これにて三章“夜降る宵朧”殺髏編終了です!

ここまで応援ありがとうございました!

そして次回より四章“優艷雅いうえんみやび愛狂飆あいきょうふう玉藻前たまものまえ編が開始します!

その前にちょっと休載……((シケン

まだまだ続きますので、これからも応援よろしくお願いします!

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