三章“夜降る宵朧”殺髏編
第84話 悠大の願い
「……なに?」
俺は朝目を覚まし、スマホを確認する。
そこには、優香からの返信が。
『助けて』21:22
(一体……何があったんだ!?)
『どうした!?』06:31
朝だからか、既読はつかない。
(確か、最初の頃……)
俺は、優香と初めてあった頃を思い出す。
〜〜〜〜〜
『友達と一緒にいる時に事務所の所長に勧誘されたんだけど……友達が凄く喜んで入っちゃって、私の親も後押しするから、なんとなくで入っちゃったの』
『へぇ〜……で、なんで辞めたくなったんだ?』
『…………友達と一緒に入ったけど、私だけ、たまたま予想外にすぐ売れちゃって……友達には嫉妬されて……話さなくなって……』
『……』
『私は、陽菜ちゃんとの仲を捨ててまでアイドルなんてやりたくなかった! でも、陽菜ちゃんはアイドルになれたって喜んでたし、辞めたくないって言ってたの! 私の事情でこれ以上陽菜ちゃんを困らせたくない!』
『そんな……』
『でも、私だけ辞めるって言っても聞いて貰えなかった! それに、私の親も猛反対するし……私が出しゃばったから……』
『……そうか』
〜〜〜〜〜
(いや……! 優香が悪いんじゃない!)
そもそも、優香が悩むべきじゃないんだ。
最初から、優香は被害者だった。
「文句くらいは聞いてやるって言ったけど……あぁ……ほっとけないよな」
だけど、今すぐにはどうこうできない。
「とりあえず、今は優香の連絡を待とう」
そうとなれば、どうする?
一絺さんは例のチビボス(?)を調べるためにしばらく研究室に
ピロン!
「!!」
俺が考えていると、丁度よくL〇NEの通知音が鳴る。
(優香か!?)
そう考えてスマホを取り、思い直す。
優香は朝に弱い。
こんな時間に起きてるのは……探索者だ。
「……え? 悠大?」
てっきり二人からの連絡かと思ったら、そこに書かれた名前は『岩田悠大』だった。
『ちよ、今すぐ時間あるか? なるべく早く会いたい。本当にすまない』06:45
『え、いいぞ? どうした? お前も何かあったのか??』06:46既読
『お前も?』06:46
『いや、とりあえず会って話したい。忙しいのは分かってるんだが……緊急なんだ。頼む!!!!』06:46
スタンプが一切押されていない。
悠大は普段、結構スタンプを使うんだが、普段なら送っているタイミングで一切スタンプが無いとなると、恐らく本当に深刻な問題が発生している可能性がある。気のせいかもしれないが。
(ったく、なんでこんな急に問題が!?)
優香といい、悠大といい、急に何があったんだ?
突然急変する事態に、流石の俺も困惑を隠せない。
「とりあえず、ゴブスラダンジョン前で待ち合わせか」
俺は動きやすい服装に着替えて、ダンジョンへと向かった。
~~~~~
「はぁ、はぁ、ち、ちよ……」
「!! 悠大!!」
俺が30分ほど待っていると、走って来たのか息切れした悠大が現れた。
「どうしたんだ!? 何かあったのか!?」
「あ、ああ。実はな……」
悠大は、昨晩の電話のことを説明する。
「お前の母さんが……それで悠大は探索者になろうと思ったのか……」
まさか、そんな理由があったなんて……
「ああ……隠してて悪い。大学に行く時間も金もなかったし、中級探索者以上になる必要がどうしてもあったんだ。でももう、時間がない」
「ああ……もう持って一月なんだって?」
病院の先生が言うには、悠大の母はもう一か月持たないかもしれないらしい。
どうやら、過労による体調不良に無理に働いたことによる病気も合わさって、相当こじらせたという。
更に、追い打ちをかけるかの如く“魔障症”が発症し、もはや薬では治せないほどに病気が渋滞しているそうだ。
“魔障症”とは、大激変以降に発見された、魔力と深い関係にある病気のことで、魔力に対するアレルギー反応を引き起こす、生まれながらの障害である。
探索者も、一般の人々でさえも魔力に深く関わっているこの世界で、魔力に対するアレルギー体質だというのは、すなわちこの探索者社会に淘汰されたことに他ならない。
(様々な病気をこじらせたせいで通常の薬じゃどれも効き目がない……挙句の果てに魔障症……)
魔障症の人間は、基本的に何をしても治らない。
唯一治せる……魔力に体をなじませることができるのは、魔道具……ポーションを飲むことだ。
魔道具の一つである、ポーションと呼ばれる治療薬。
それは探索者の怪我を治したり、病気をも飲むだけで治せてしまうのだ。
(しかし、ポーションは“専門外”なんだよな……せめてアイテムボックスならなんとか作れるんだが……)
しかしポーションは下級のもので50万ほどする。
病気を治せるのは中級以上のものだけだ。
「中級なら200万……」
「あ、いや、先生がなんか病院の名義で150万で買えるって」
「え? まじ?」
探索者の需要が最も高いポーションだが、当然医療従事者にも人気は高い。
かけるだけで安全に治療が出来るからな。
だから病院でも確保するために優先権が月に一度もらえるのだが……そうだとしても、悠大の母親にちゃんと使ってもらえるのか?
「それにしても、そんなに安くなるもんか? いくらなんでもそんなに差が出るわけ……」
「いやまぁ、俺もそう思ったんだけどよ? それが探索者協会の闇ってやつよ」
魔道具類のオークションは全て探索者協会が管理している。
探索者の需要が高いのは確かだが、いくらなんでもぼったくりじゃねぇか?
「じゃあ、150万持ってこようか? 別に返さなくていいぞ」
「いやいや! そういうわけじゃねえから! これ以上ちよに迷惑はかけれない!」
悠大は違う違うと両手を振る。
「でも、マジで時間ないんだろ? 母親、助けるんだよな?」
「でも、金の貸し借りは人間関係を破滅させる……そうなりたくないんだよ!」
「そ、そうか」
実際、そんなに余裕があるわけではないけど、悠大になら、150万くらいあげても構わないと思う。
悠大がいなければ俺は、探索者を続けられてなかったはずだしな。
「母さんは俺と妹が幼い頃に死んだ父さんの代わりに、毎日働き続けて……そのせいで倒れたんだ」
「そうか……で、じゃあ俺は何すればいいんだ?」
悠大が、ガバッと頭を下げた。
「頼む! どんなにきつくてもいい! 俺を今すぐ鍛えてくれないか!?」
「え、いや……それはいいが」
「……! ありがとう!!」
なんだ、そんなことか?
思ったより簡単な願いだった。
しかし、簡単なのは悠大の要求であって状況じゃない。
とにかく、悠大の母親を治すのは急がなくちゃならない。
(どう考えても俺が出した方が早いと思うんだが……)
俺は頭を悩ませながらも、悠大を連れてダンジョンに向かった。
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