第83話 巻き起こる異変


──時刻は19:30分。

 一般ピープルにとっては、いわゆるテレビを見る時間……ゴールデンタイムだ。


(はぁ……一体なんだったんだ、あのモンスターは……)


 結局あの後、一絺さんは情報を探ると言って研究室にこもった。

 しばらくはやっぱり来なくて良いぞとのこと。


「あ……そういえば最近、優香から連絡無くないか?」


 俺は帰ってきてから、気を紛らわすためにテレビをつけ、思い出す。


(学園対抗祭に出てたことは知ってるだろうし、見てたとも思うんだけど……てっきりお祝いL〇NEくらいは送ってくれると思ってたな……)


 まぁ、思い上がりってやつだったんだろうか。

 ……あ。

 そういえば今日のこの時間って……


「どうも〜皆さんこんにちは、司会の熊田銀次郎です! 今日も新鮮な観光名所巡りの光景をお送りいたしまーす!」


「今日のこの時間、優香が出るって言ってたけど……」


 記憶力が跳ね上がっている俺は、一月ほど前に優香が言っていた言葉を思い出すことに成功し、なんとはなしに見てみることにした。


「さて、今日行くところは〜! 最近流行りの探索者の国、シンガポールです!」


「おぉ、シンガポール」


 シンガポールは、ボス以外が出現しないゴールドダンジョンを見つけ、大量の魔道具によって一気に大国へと躍り出た国だ。

 当然、探索者人気が年々挙がっているこのご時世において、最もホットな観光スポットである。


「今日のメンバーは〜?」


 次々とメンバーの男性女性が発表されていく。そして……


「そして、最近有名な超若手アイドル、飛彩優香さん!」


「……優香?」


 思わず、目を見開いた。


 紹介された優香は、水着姿だったから。


「今日は最近話題のナイトプールに行ってみました〜!」


「「イェーイ!」」


「……」


 どうやらプール撮影だったようだ。

 他の人たちも水着なのだが、何か違和感が……


(なんか、恥ずかしがってる……?)


 番組に出演してる以上、水着ロケと分かってて来てるはずだが……

 どうみても、異様に恥ずかしがっている……いや、嫌がっているのか??


 優香はとにかく、顔に出やすい。

 これは明らかに嫌々、といった風だ。


 結局、優香は余り喋らずにカメラから消えてしまう。


(なにか……あったのか?)


 とりあえず、俺はこちらから連絡してみることにした。

 実際、初めて歌以外の番組で優香の出演を見たので、バラエティ番組ではいつもの事なのかもしれないが……


 いや、待てよ?

 優香はソロ歌手のアイドルだよな?

 それがいきなりバラエティ……か?


 そもそも、歌番組以外の出演予定はなかった気がする。

 この時間も、本来ライブ番組だったはずだが……


『優香、今日のテレビ出てた?』19:44既読

『なんか、凄いらしくなかったけど……』19:44既読


 既読がつくも、何分待っても返信が来ない。


(あれ……? そんなことあったっけ?)


『もしかして何かあった? 大丈夫?』20:10既読


…………

…………



『助けて』21:22



〜〜〜〜〜


「え!? 母が危篤!?」


 夜中に来た病院からの電話。


「はい……はい、治療費の方はどのくらい……? やはり100万のポーションが必要ですか……それでも延命なんですか? なるほど、1年は伸ばせると……はい、分かりました、すぐ向かいます」


 俺は電話を切る。


「くそっ……! 時間がない!」


 俺の家庭は、数年前から俺と妹しかいない。

 父は俺が小学生の頃に亡くなり、母は働き詰める余り体調を崩してしまった。


 それでも幼い俺と妹のために無理をして働き続けた母は、遂に倒れてしまったのだ。


 病気を拗らせて入院となってしまい、どこに行っても100万程の治療費がかかるらしい。


 まだ探索者学校に入学したところだというのに、もう時間がない……!


 貯金なんてないし、今のままじゃ中級探索者にもなれない……!


(なにか……売れるものとか……!)


 ……!

 俺は、玄関にあるベルトに目が留まる。


 アリゲータベルト……800万を越えるほどの高値で売られていた魔道具で、俺の【探索】スキルを補助する効果を持つ魔道具だ。


 魔道具は、中古でも値段がほぼほぼ変わらない。

 これを売れば間違いなく、治療費になるだろう。

 なんならこの家より高いかもしれない。


(いや……これは千縁から貰ったものだ。売ったりなんか絶対に出来ない!)


 俺は、頭の中に浮かんだ悪しき考えを振り払う。


「なにか……なにか方法は……!」


 俺は、隣ですやすやと熟睡する妹を横目に、頭を悩ませるだった。

















​───────​───────​───

これにて二章“憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編は完結です!!

ここまでご覧頂きありがとうございました!

続きましては、第三章“夜降よくだ宵朧しょうろう殺髏せつろ編が始まります!!

お楽しみに!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る