二十話  封建中国、洛陽の乳飲み地主

ここ洛陽は、河南省西部、黄河中流に位置し中国七大古都の一つである。

遠く三千年の昔から、九の王朝が都を置いたかつては政治文化経済の中心地。

四大石窟の龍門石窟、名刹白馬寺、三国志英雄の関羽を祀る関林など有名。

中国文明発祥の地の一つであり、中原を抑える要衝の地でもある。


話は、封建時代に遡る。地主の横暴、小作の隷属は日本の比ではない。

圧政の巣窟の王朝は、地主の味方である。小作から絞れるだけ絞れと命ずる。

後は好きにせよと、気に入らなかったら売り飛ばせ、見せしめのリンチをと。


小作の娘たちは、地主の慰めものになった。嫁だって、夫の筈の子を産む。

乳飲み子を抱えた女は、地主の屋敷に囲われることもあり。滋養の為にである。

我が子に与える大事な乳を、血気の地主は自分のものとばかりに、むしゃぶった。

朝、起き出しては生乳を飲む、喉が渇けばしゃぶりつく、寝るまでそうであった。

いいように扱われた嫁は、夜やっと家へ帰される。やっと我が子に与えられる。

その日々の繰り返しであった。地主と、乳の張った小作の声が……


地主 「お前の子は、ワシの子かも知れんある。たっぷり可愛がったある」

   「乳の出を良くしてやる。明日から毎朝来い。子の為にあるだけじゃない」

村の嫁「地主様、もう勘弁してくだされ。子を育てねばなりません。乳だけは」

地主 「おいおい、何を言うね。小麦畑、コーリャン畑がどうなってもいいんか」

   「貸してやらんぞ。よそに出す、それでもいいあるか? 流民になるぞ」

村の嫁「あうっ、せめてお願いがあります。夜になったら、すぐ帰らせてくだされ」

   「それと、赤子の為にみんな搾り取るのは、そこまではしないでくだされ」

地主 「大丈夫ある。ほかにも赤子持ちの女が何人もいるある。お前だけじゃない」

   「乳を飲ませるだけでよい、暴れたりはせん。その為の女はこれまたいる」

   「ええな、わかったな。夫、子、畑を守れ。ワシに乳を与えるだけですむ」

村の嫁「地主様、もしや子が地主様の子かも知れんので、そこんとこは、のう……」


この嫁は、あくる日の朝早くから地主の元へと向かった。

地主は地主で、前の日の夜から朝まで、お茶を飲むのを我慢していたのであった。

相当に喉が渇いていた。この分だと、嫁はたまったもんじゃない。お茶にされる。


地主 「おお来たか、待ってたある、さっさっ寝床に来い。滋養の為あるね」

村の嫁「全部、飲まないでくだされ、それだけは頼みます……」

地主 「わかったある、わかったある。乳の出を良くしてからじゃ、まかせるある」

村の嫁「来年も、再来年も、いつまでも畑を貸してくだされ。地主様……」



中国では、古代から若返り思想がある。より若い女を求めて滋養強壮の元とする。

この物語の小作の嫁は、与えるのはそれだけですんだ。せめてもの結びとしたい。

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