#22「脚本会議(後編)」


 初回の脚本会議から一週間後、二回目の会議が行われていた。


 しかし、出席しているのはたったの四人。


 前回プロットを持参した四人だけで、次回はちゃんとプロットを書いてくると約束した大城も那須も他の連中も部活があるとか、バイトが忙しいという理由で帰ってしまったのだ。


 宇佐見うさみは少し残念そうな顔をしていたが、結局俺たち四人で脚本会議を進めることになった。



 そして、七月に突入して三回目の脚本会議が開かれる。


 出席したのは三人。


 前回参加していたうちの一人は定期考査の対策をしなければならないと言って帰ってしまった。


 宇佐見もさすがにテスト勉強と言われると無理やり引き留めるわけにもいかなかったらしい。


 他の連中はと言えば、言わずもがな。


 もはや、脚本会議が今日あることすら知らないのかもしれない。



 そんな調子で、定期考査が終わり夏休み前最後の脚本会議になると。


 とうとう出席者は俺と宇佐見の二人だけになってしまった。


 真面目に参加していた二人も今日は用事があり、どうしても参加できないらしい。


 本当は別日に改めたいところだが、明日のLHRロングホームルームの時間にクラスでプロットを発表して採用する脚本を決めなければならないため、延期させることができなかったのだ。


 仕方なく、俺たちは二人で脚本会議を進めることにした。


 ふと、二台の机をくっつけた向かい側で宇佐見が頭を抱える。


「んー、みんな頑張ってくれたから心が痛いけど、選ばれるのは一作だけなんだよね……」

「そうだな、さすがに全部やるわけにはいかないだろうし」


 初回の脚本会議から数えて約一か月間。


 今まで俺たち四人が考えてきたプロットのうち、たった一作が脚本に選ばれるのだ。


 もちろん、それぞれの作品に四人の意見が反映されているため、どれも四人で考えた作品であることは間違いないのだが、やはり自分で考えたアイデアに愛着が湧くものだ。


 特に俺の場合は先輩たちに手伝ってもらったということもあり、自分で考えたアイデアよりも何倍も愛着があった。


 先輩たちのためにも、叶うことなら脚本に採用されたい。


 そのためにも、最後の意見交換を有意義なものにしたかった。


 そして二人での脚本会議は順調に進んでいき、宇佐見のプロットの話になる。


「この、『ウサギ星人が地球を征服する』ってのは斬新で面白いアイデアだと思うんだけど……キャスティングがどうしても女子に偏ってしまいそうなんだよな」

「そう? 私は男子がウサギ星人をやっても全然いいと思うけどなー」

「男がウサ耳を付けるのか……?」

「うん、相模さがみくんも似合いそうじゃん?」

「いや、さすがにキモいだろ……」


 そんな調子で互いに熱弁を振るいながら会議が進行していき、気付けば下校時間が迫っていた。


 プロットの意見交換もひと段落つき、ちらほらと世間話が混ざるようになると、不意に宇佐見がめずらしくため息を吐く。


「ごめんね、相模くん……」


 その言葉がなにを意味しているのか、俺にはすぐ分かった。


 二人になってしまった脚本会議。


 責任感の強い宇佐見はそのことを気にしているのだろう。


「なんで宇佐見が謝るんだよ? 宇佐見は頑張ってるじゃん」

「そんなことないよ。きっと私が中途半端だから……」

「中途半端?」

「ほら、他の係と掛け持ちしたりして、あんまりみんなと話せなかったからさ……」

「掛け持ちしてるのって、他のところが人数足りてないからだろ? それに宇佐見は委員長の仕事とかテスト勉強とかで忙しかったのにちゃんとプロットも書いてきてくれたじゃないか」


 それなのに、自分の頑張りを否定するようなことを言っちゃいけない。


「宇佐見は充分すぎるくらい頑張ってるよ。もっと自分を誇っていいと思う」

「相模くん……」


 すると、宇佐見は気合を入れ直すように頬を叩いて顔を上げる。


「ありがと。私、もっと頑張るよ!」


 そう言って、胸の前で拳を握る宇佐見。


 そんな前向きで健気なところが彼女の良いところなのだろう。


 だけど、俺はそれが理不尽に思えてならない。


 結局、ここに参加していない無責任な連中が一番文化祭を楽しむのだろう。


 一生懸命頑張った人の努力なんて知らず、当たり前のように上積みをすくう。


 そして、まるで自分たちが文化祭の主役であるかのように振舞うのだ。


 正直、俺にとってあんな連中のことなんてどうでもいいが、こんなに頑張っている宇佐見が報われないのは許せなかった。


 だから、俺にできることはなんでも協力しよう。


 俺はそう決意を決めたのだった。



   ◆ ◆ ◆



 翌日のLHRロングホームルームでみんなの前でプロットを発表し、最も票を集めたのは俺が書いたプロットだった。


 そして俺が文化祭で披露するオリジナル演劇の脚本を担当することになったのだ。


 正直かなり責任は重いが、選ばれたからには頑張るつもりだ。


 それに、先輩たちが一緒にアイデアを考えてくれたのが無駄にならなくて良かった。


 俺がほっと胸を撫で下ろしていると、宇佐見が声を掛けてくる。


「相模くん、おめでとー!」

「ありがとう、選ばれたからには頑張るよ」

「うん、応援してる。あ、それと初稿なんだけど、夏休み明けに出せるかな? キャスティングとか稽古とかいろいろ考えると、そのくらいには上げて欲しいんだよね」

「わ、分かった。初めて書くからどのくらいで書けるか分からないけど、とにかく頑張るよ」

「うん、お願いね。困ったことがあったらいつでも相談してくれていいからね」


 夏休み明けが締め切りか……。


 正直どうなるか分からないが、頑張るしかなさそうだ。



 それから数日後。定期考査の結果が返却され一学期の全科目が終了する。


 そして、とうとう待ちに待った夏休みがやってきた――。

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