モブの俺がなぜか姉の友達からやたらとモテる件について
更科 転
第1章
お泊り会編
#1「主役の姉と脇役の弟」
誰もがみな主人公だ……なんて名言があるけれど、現実ではそんなことはない。
その証拠に俺――
容姿端麗、文武両道、品行方正……
なにをやらしても完璧にこなす姉――
花火とは対照的に、俺は何をするにも人の何倍も努力をしないと人並みにはできなくて、勉強もスポーツも人付き合いだって下手だった。
そんな出来損ないの俺は彼女の弟になんか生まれたせいで、常に姉と比較されてきた。
花火の弟なんだから優秀に決まっているとか勝手な期待を抱かれて。
そして、ガッカリした顔をするのを俺は何度も見せられてきた。
どんなに頑張っても姉に勝てるものなんてなくて、何かを成し遂げても褒めてすらもらえない。
花火の弟であるかぎり、この先もずっと比べられるのだろう。
俺はそれが苦しくてたまらなかった。
だから、俺は引き立て役に徹することにしたのだ。
花火の非凡さを引き立てるための凡人。
鮮やかな花を際立たせるための葉っぱ。
メインを彩るための飾り。
主役を目立たせるための脇役。
そうすることで気分がいくらか楽だった。
脇役は脇役なりに穏やかな日常とささやかな幸せがあればそれでいいと思っていたのだが……。
「旭くぅん、お姉さんが一生お世話してあげるからね~」
「おい、旭。べ、別にアタシはお前と一緒にいたいとか全然思ってないからなっ!」
「旭さん、シャキッとしてください。まったく、仕方のない人ですね……」
脇役の俺が、なぜか姉の友人からやたらとモテるんだけど……。
なんでだ……?
◆ ◆ ◆
少し汗ばむような季節に差し掛かった六月上旬のとある月曜日。
朝から校庭に全校生徒が集まり、週初め恒例の全校朝礼が催されていた。
列の真ん中からやや後ろの辺り。あくびを噛み殺しながらぼーっと突っ立っていると、不意に背後からひそひそとした話し声が聞こえてくる。
「
「なんだよ、藪から棒に。まぁ分かるけどさ」
後ろにいる男子二人の話題のタネである「花火会長」は今ちょうど全校生徒の前で生徒会長として朝礼のスピーチをしていた。
俺の実の姉である相模 花火。
艶のある
衣替えの季節になり、夏服から伸びる処女雪のような白い肌が全校生徒の視線に晒されていた。
「――だよな、あんな人普通に生きてたらぜってぇ出会えねぇーぜ? この学校入ってホント良かったよ~。神に……いや、受験期のオレに感謝だぜ」
「大袈裟なヤツだな。まぁ、お前みたいなヤツがお近づきになれる相手じゃないよ」
「なんだとぉ~、いやたしかにその通りなんだけどさ……。だが、諦めるにはまだ早いぜ? なんせウチのクラスには……」
そこで背後から聞こえる声がより一層小さくひそめられる。
「ほら、アイツ。相模だよ、花火会長の弟のさ。アイツと仲良くなれば俺でもワンチャンあるかもしれないだろ?」
「ねぇーよ、バカ。……だいたいアイツ陰気だし、話しかけても素っ気ないじゃん」
「たしかに……。オレ、アイツが花火会長の弟だって未だに信じられねぇよ」
「それな、モブって感じ」
言って、二人はクスクスと肩を揺らした。
そして、片割れがふと気付いたように口に人差し指を当てる。
「おい、あんまりデカい声出すとアイツに聞こえちまうぞ」
聞こえてるよ、バカ二人……。
俺は
二人はすでに別の話題に移っており、アイツらにとって俺はとっくに背景に溶け込んでしまっているのだろう。
まぁいつものことだ。好きなことを好きなだけ言うヤツらは今までも数えきれないほどいた。今さらどうってこともない。
はぁ……とため息を吐きながら前に視線を移すと、花火がスピーチを終えてマイクの前で一礼していた。
途端、校庭に全校生徒の拍手が響き渡る。
その光景はまるで舞台終幕後のスタンディングオベーションだった。
拍手に涼やかな笑みで応える花火の姿を見ていると改めて思い知らされる。
相模 花火は主役になるべくして生まれ、そして彼女の弟に生まれた俺はこの先もずっと脇役のままなのだと。
……俺は、脇役として周囲に合わせるように手を叩いた。
この時の俺は気付いていない。
生徒会役員として花火の傍に控えている、
副会長・
書記・
会計・
この三人の上級生からなにやら怪しげな視線を向けられていることに……。
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