スーサイド・ステップ

弓村扇

アベリア

自分をどんな人間かと定義するとすれば、「人並みな人間」であろう。

どの分野に置いても目立った欠点はないが、かと言って目立った長所もない。

ただ、ひとつ悪目立ちするのは精神の脆さである。

夜は根拠の無い不安に希死念慮が煽られ、朝が来るのを拒み、いざ朝が来ると絶望とベッドに沈む。

だが、これといって死ぬ理由もなく、いつか誰かが無意味な生活を終わらせてくれることを望みながら自堕落に生きているのである。


先日、別れを迎える先生への花束を注文しに花屋を訪れた。

そこに置かれていた少し季節外れの鉢植えのアベリアに何故か心を奪われ、売り物ではないからと渋る店長を説得し、購入した。

我ながら良い買い物が出来たと思っていた。

春を過ぎ、初夏を迎えた頃、忘れかけていたアベリアを思い出し、外へ出ると、質素な庭に咲いていたはずのアベリアはいつの間にか腐ってしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る