第17話 ただ未来のために
「悪い魔女が私の国に……」
それに対して私はどう反応していいかわからなかった。
既に私は国を出た身だ。祖国への未練はもうほとんどない。
「それから、もうひとつ、悪い知らせがある」
「悪い知らせ……ですか?」
なんだろう?
「ローズ姫の国だが……、今現在、城が茨によって覆われている」
「えっ!?」
茨!?国が!?
「そんなまさか!」
嘘ですよね?と聞いたけど、残念ながら魔女さんは首を振った。
「ここに来る前に見てきた。間違いない」
そんな……、茨……ってことは、多分。
「呪いが発動した結果……ですか?」
私の代わりにドルン様が聞いた。
「ああ、おそらくそのとおりだろう。少し話を聞いたら昨日からその状況らしい」
「……」
あまりの内容に言葉が出てこない。
昨日男を縛り上げただけで終わっていたと思っていた茨の呪いがまさか、大きくなって祖国にも影響してるとは思ってもみなかった。
「うん?……城だけ?って言いました?城下町とかは?」
「いや、城だけだ。城下町では混乱しているが、茨は全くなかった」
ショックを受ける私とは裏腹に、ドルン様は冷静に状況確認をしている。
城だけなことにまさか意味があるみたいだけど……
「僕の知っている限り、本当に呪いが発動していたらそんな程度で収まらないはず。城だけっていうのは、きっと漏れ出した結果なんじゃないかな?」
城だけでも十分だと思うけど、それが漏れ出しただけ!?
じゃあ、本当に発動しちゃったらどうなるの!
「うむ、しかし、事態は急を要するぞ。なにせ、茨の範囲は徐々に広がっているという話だったからな」
「なるほど……それはたしかに急がないと……」
私のせいで大変なことになってしまった。
「しかし、どうしてローズ姫の国なんだ?聞いてた話だと、自分の周囲という話ではなかったか?」
「こちらでは発動した際に男一人を倒す程度で終わりました。しかし、途中で遮られたことによってローズの想いが強いところが対象になったのではないかと」
「うーん、よくわからんなぁ」
二人が話しているけど、私の耳には情報として入ってこない。
どうしてこんなことにという想いに支配されてしまっている。
「確認です。ローズ姫の国を救うためには悪い魔女を倒せばいいんですよね?」
「ああ、しかし、それは……」
「はい、大変なことはわかっています」
「……あまり言いたくはないが、あの姉は天才だ。正直、お前でも勝てるかどうか……」
「ですが、それしか手段はないんですよ」
「それは……」
魔女さんが私の方を見る。しかし、首を振ってドルン様の方に視線を戻した。
今の意味深な行動はなんだろう?
「幸いにも件の魔女の場所もわかっている、ならばやることは一つです」
「そうか……、それならばもう何も言わない」
それっきり、魔女さんは黙ってしまった。
ドルン様が私の方を向く。
「というわけで、ローズ。僕はこれから悪い魔女を倒してくるよ」
「……危険なのではないんですか?」
さっきも魔女さんが言っていたけど、悪い魔女と戦って無事にすむとは思えない。
「うん。確かに、今の僕だとギリギリかもしれない」
「それならっ!」
辞めて欲しい、なんて言葉が出かけた。しかし、それはドルン様に遮られてしまった。
「正直ね、ローズの国がどうなろうと僕としてはどうでもいいんだ」
「えっ?」
「ただ、ローズの悲しい顔は見たくないからね」
「あっ……」
自分の表情は見えないけれど、自分がどれだけ自分の事を責めていたのかはわかっている。
「きっと、これを放置したらローズはずっと自分自身を責め続けることになるだろう?それは、とても辛いことだから」
「……」
「それに、魔女を倒せばローズの呪いも解ける。一石二鳥だね」
「それはそうですが……」
「だから、ローズは安心して待っていて欲しいんだ。きっとこれからの僕たちの未来を勝ち取ってみせるから」
ドルン様は笑顔だったけど、その顔には決意がみなぎっているように見える。
これはもう何を言っても変わらないだろう。
だったら……
「私も……着いていきます」
何もせずにじっとしていることなんてできない。
何の力にもなれないかもしれないけれど、せめてそばにいるくらいはしたい。
私の言葉に、ドルン様はひどく驚く。
「いや、でも……危険だよ」
「それはドルン様も同じ事です。お願いです。遠くで見させてもらうだけでもいいんです。私を国まで連れて行ってもらえませんか?」
「……」
真剣な私のお願いに、ドルン様は目をつぶって悩む。
「……わかった」
しばらく悩んだ後に、ドルン様は頷いてくれた。
そして、私の事を抱きしめる。
「ローズの気持ちはとても嬉しい、でも……」
でも?
「やっぱり連れていけないよ。危険過ぎる」
「そんなっ!」
わかってくれたと思ったのに!
「ごめんね」
ドルン様は私を抱きしめたまま、何事かをつぶやく。
途端に、私の意識が朦朧としてきた。まぶたが自然と下がっていく。
これは……まさか……魔法?
ドルン様は私の頭を撫でる。
「全てが終わった時には今度こそキミと……」
ドルン様の最後の言葉を聞き取ることが出来ずに、
私は意識を失った。
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