第12話 さらわれました
その日、私は買い物をしていた。孤児院で必要な食材の買い出しだ。
いつもは一人で来るんだけど、今日は一人の子供と一緒だ。どうしてもついていくと言って聞かなかったのだ。
「それじゃあ、後は野菜ですね」
「うん!じゃああっち!」
「そんなに急がないでいいからね!」
私と一緒に街を歩くのが珍しいのか、凄く楽しそうに、はしゃいでいる。
「えっと、これと、これと……」
院長さんからお願いされた食材を八百屋さんの前で選んでいく。
「おっ!いいねっ!ローズちゃん、可愛いからこいつもプレゼントだ!」
「あんた!ローズちゃんにはドルンさんがいるんだよっ!」
「おっと、いけねっ!」
八百屋さんの夫婦は凄く仲が良さそうだ。
「すまないねぇ、後でちゃんと言い聞かせておくから」
「あ、いえ、いつもサービスしてもらってますので……」
買い物に出ることも増えたのでこうやって顔見知りも増えてきた。
楽しく買い物をしたところで気がついた。
「あれ?あの子は……」
一緒に買物をしていたはずの孤児院の子供が見当たらないのだ。
「あの子なら、あっちの方を見てたよ?」
八百屋のおばさんが指を差す、そちらには脇道が一本。
隠れているんだろうか?
「ありがとうございます」
お礼を言って、私も脇道に入る。
「どこにいるの?」
声をかけながら脇道を歩いていくと。
「あれ?」
急に目の前が真っ暗になった。そのまま私は倒れてしまった。
「うっ……うーん……、ここは……?」
目を覚ました私は辺りを見回す。
暗い、そして寒い。どうやら硬い地面の上で横たわっていたみたいだ。
「私はいったい……?」
脇道に入ってからの記憶がない。
「お姉ちゃん!目を覚ました!」
混乱していると、女の子が声をかけてきた。私と一緒に買物にきていた女の子だ。
「あなたは……、ここはいったい……?」
「わたしもわからないの。脇道に入って、気がついたらここにいて……」
どうやら、女の子も私と同じ状況らしい。
更に周りを見回してみると、周りには他にも子供達がいる。孤児院の子どもたちではないけれど、皆同じくらいの年齢だ。
そして、そんな私達を閉じ込めるように檻があった。
そこで私は初めて気が付いた。
「ひょっとして誘拐された……?」
先日院長やドルン様にも言われた子供達が攫われているかもしれない件、周りにいる子どもたち、そして閉じ込める檻。間違いないだろう。
あれだけ気をつけるように言われたのに、私まで攫われてしまうなんて!
自分の迂闊さが情けない。
シクシクと泣いている子どもたちを見ていると、私も泣きたくなってしまった。
いったい私は、私たちはどうなってしまうのだろう。
「おおおう、起きたみてぇだな」
「誰っ!」
不安に苛まれていると、檻の外から男の声がした。薄暗くて外が見えない。
「はっ、これから売り物になろうなんてやつに名乗る名前はねぇなぁ」
「売り物!?」
男は私の事を売り物と言った。それはつまり、
「人身売買ってことですか!」
「この状況がそれ以外に見えるんだったら医者に行ったほうがいいぜ。もっとも、それは闇医者かもしれんがなぁ」
男は笑った。表情も見えないのに下卑た笑い声だ。
「いったいどうして……そんなことを……」
「クライアントからの命令でなぁあ。本当は子どもたちをってことだったんだが、お前さんは関係ないんだが引っかかっちまったみてぇだからなあ。処理はクライアントにお願いしとくことにしたぞ」
引っかかった?よくわからないけど、どうやら私が攫われたのは想定外の事態らしい。
「まぁ、明日にはクライアントに引き渡すから楽しみにしてな」
言うだけ言って男の遠ざかっていく足音がする。
なんてこと……、まさか人身売買に自分が巻き込まれるなんて……
しかも、明日。今が何時かわからないけど、とてもじゃないけど、時間がない。
ドルン様が調査をしていたと思うけど、そんなにすぐには結果は出ないだろう。
男が言っていたクライアントというのがどういう人かわからないけど、人身売買をするような人だ。とても良い結果にならないことは目に見えていた。
なんとかここから逃げ出さなければ。そう思って周りを見回すけど、辺りには何もない。泣いている子どもたちと冷たい檻だけだ。
「お姉ちゃん。わたしたちどうなっちゃうの?」
一緒に攫われた女の子も泣きそうだ。
「大丈夫。大丈夫だから」
私は女の子を抱きしめてつぶやく。それは、自分に言い聞かせるためでもあったのは言うまでもない。
攫われてからいったいどのくらいの時間が経っただろう。薄暗い中で時間の感覚が麻痺している。1時間にも3時間にも思う。
女の子は泣きつかれて私に抱かれたまま眠ってしまった。
気がつけば私の周りには他の子達も集まっている。
しかし、私にはどうすることもできない。
こんな時ドルン様がいたら……
そんなことが頭をよぎるけど、首を振る。
ドルン様がこんなにすぐに助けにくるはずがない。私はきっとこのまま売られてしまうんだ。
そう思っていたそんな時。
「~~~~~~~!!」
檻の外から声が聞こえた。
内容は詳しくは聞こえてこないけど、誰かが叫ぶような声。
続いて始まるカキンという金属を打ち付けあったような音。更に悲鳴まで聞こえてくる。
いったい何が!
争うような声は段々とこちらに近づいてきているように思える。
カツ、カツとこちらに向かってくる足音。
わけもわからず、女の子を抱きしめる力が篭ってしまった。
そうして、檻の前で足音が止まり。
「やぁ、ローズ。迎えに来たよ」
「……ドルン様?」
見慣れた笑顔のドルン様がそこに立っていた。
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