第6話 一目惚れは嘘じゃないけど
「あの、ドルン様はどうして私を助けてくれるんですか?」
ひとしきり、照れた後に、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
いくら婚約者同士とはいえ、実際に会ったのは昨日が初めてだ。そんな初対面の状態なのに、助けてくれる理由がわからない。
それに、ドルン王子の国に私は暗殺されかけていたはずだ。国の方針に逆らってでも、私を助けてくれるのはなぜだろう。
私の言葉に、ドルン王子は少し困ったような笑みを浮かべた。
「うーん、理由は色々とあるんだけど……強いて言うなら、一目惚れ……かな?」
「一目……惚れ!?」
一気に顔に熱が立ち上る。
「ま、まぁ、その他にも理由はあるけどね」
王子の顔にも若干赤みがさしている。
「それに!暗殺っていうのはどうかと思うんだよね!その抗議の意味でもあるから!」
「な、なるほど!」
王子が話を逸らすようにしたのに私も乗っかる。
「しかし、大丈夫なんですか?その、ドルン様はこの国第一王子でもありますし」
「うーん、大丈夫じゃないかな?もともと僕は王位は継承するつもりなかったしね」
「えっ!?」
王子が衝撃の発言をする。
王子は隣国の私のところにも伝わってるくらいには優秀なはずだ。次世代の王は既に決まっていると思っていた。
「まだ弟の年齢が足りないから放棄はできないけど、弟が成人になったら放棄するつもりだったんだよ」
第二王子はまだ10歳くらいだったはず。噂で聞く限りではドルン様に負けず劣らず優秀だと聞いているけど。
「それがちょっとだけ早くなっただけだよ。知り合いにお願いしてね、父上と弟宛の手紙を渡してもらうつもりなんだ。そこに放棄のことも書いてある」
早くなっただけ、それで本当にいいんだろうか。不安になってしまう。
「僕は自由のほうがあってるんだよ。本当に気にしないでいいから」
「そう、言われましても……」
気になるものは気になるのだ。自分のせいでとどうしても考えてしまう。
「まぁ、そのあたりはおいおいわかってもらうとして、そういえば、手紙にはちゃんと姫の国に迷惑がかからないようにしておいたよ」
そうだった、私が逃げたとなると、国にも迷惑がかかってしまうんだった。
あんな国でも私が今まで育った国だ、迷惑がかかるのは忍びない。
「ありがとうございます」
「なんのなんの」
お礼を言う私に、なんてことないと笑みを浮かべる王子だった。
「準備はいいかい?」
「はい」
話もまとまったところで、王子と一緒にスラム街を出ることになった。
馬車の御者台に座る王子の横に私も座る。考えてみれば、いつも馬車の中にいたからこんなところに座るのは初めてだ。
ちょっとドキドキする。
「それじゃあ!出発!」
王子が鞭を打ち、馬車が動きだした。
「きゃっ!」
思った以上の揺れで身体が傾いてしまった。王子により掛かるようになってしまう。
「ご、ごめんなさい」
慌てて離れる。
「ふふっ、ちゃんと捕まっておいてね」
「はい……」
手すりをしっかりと掴んでおこう。
馬車の揺れにも慣れてきた頃。
「そういえば、自由都市まではどのくらいかかる予定なんですか?」
王子に聞いてみた。
「そうだなぁ、このペースで行けば30日ってところかな?」
「30日!?」
30日は私が自分の国からここまでやってきた日にちと同じくらいだ。長時間の移動はとても大変だった。
そんな、私がげんなりした感じを察したのか、王子は笑った。
「まぁ、王都は国の中心にあるからね、どっちに出ようと時間はかかるさ。でも、30日っていうのは普通に行けばの話だよ」
うん?どういうことだろう?
「普通じゃない方法があるんですか?」
「あるさ、例えば、この森を抜けていくとかね」
王子が指差す先は深い森がある。
「この森……あの有名な黒の森では?」
王都のすぐ近くにあるとても危険な森、隣国の私のところに伝わってくるくらいには危険で有名な森だ。
「この森を通っていけば15日くらいで行けるはずだよ」
「いえ、でも……、流石に危険ですよ」
入ったら出られないという噂の森。流石にそんなところを二人でいけるはずがない。
「それは言いすぎだよ。たしかに、魔物は強いけれど、出られないってほどじゃないさ」
私の言葉に王子は首を振った。
「なんせ、僕は子供の頃から、この森で狩りをしていたからね。もっとも、最近はあんまり来られてないけど」
「黒の森で狩り……?」
「そうそう、知り合いがこの森の中に住んでいてね」
黒の森に人が住んでいるなんて話は聞いたことがない。なにかの間違いなんじゃないかな?
「あの人ならきっと僕たちを助けてくれるはずだよ」
王子が馬車の方向を変える。その先には黒の森がある。
「本当に行くんですか!?」
ああ、入っていく。黒の森の中に入っていく!
「大丈夫大丈夫。君のことくらい僕が守ってみせるから」
言葉はかっこいいけれど、やっぱり不安だ。
しかし、私は従うしかない。少しだけ震えながら、周りを見ますことしかできなかった。
そうして、私達を乗せた馬車は、生きたら入れないと呼ばれる森の中に入っていく。
生きて出られたら、いいなぁ……
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