恋の相談役ブッコロー

amegahare

ブッコローのアドバイス

 満開の桜が僕の心を和ませる。

 陽気な季節の訪れは、躍動する生命の息吹を肌で感じることができるから好きだ。

 あとは、僕の恋さえ無事に叶えば、もう何も言うことはない。

 

 同じ大学に通う未希みきにどう想いを伝えようか、と僕は繰り返し自問し続けていた。そんな悩み多き日々を過ごす僕は今日も目的がないままYouTubeを徘徊していた。

 すると、たまたま見つけたYouTuberが「とある本屋にブッコローという恋愛成就のスペシャリストがいるらしい」という噂話をしている場面に出くわした。僕の直感が「これだ!」と告げてくれた。

 とある本屋は神奈川を中心に東京・千葉に店舗を運営している老舗書店らしい。果たして、どこの店舗に恋愛成就スペシャリストのブッコローがいるのだろうか。さんざん迷った僕は、書店の本店に行ってみることにした。


 電車に一時間ほど揺られて、僕はとある書店の本店に到着した。

 広い店内を見渡す。どこもかしこも本、ほん、ホンが綺麗に並べられている。多くの本が放つ独特の匂いは僕の心を弾ませる。僕は小さい頃から読書が好きだ。もし、ここにブッコローがいなければ、何か新刊本でも買って帰ろうか。そんなことを考えながら、広い書店の中を歩いていくと、通路の隅にミミズクがいた。体調は60cmくらいで、全体的にオレンジ色の羽毛に包まれていて、カラフルな羽角がお洒落だ。

 興味を持った僕は、そのミミズクの前まで歩み寄り話かけてみた。

「あの、こんにちは。僕はブッコローを探しているのですが知りませんか?」

 クリクリとした目が可愛いミミズクは優しく答えてくれた。

「私がブッコローである」

 そのミミズクの堂々とした態度に僕は内心焦った。

「あなたがブッコローでしたか。それは大変失礼致しました」

「気にすることはない、少年よ」

 どうやらブッコローは僕の無知を咎める気はないようだ。なんて心優しいミミズクなんだ。

 僕が感慨深い気持ちになっていると、ブッコローが僕に尋ねてきた。

「ところで、少年よ。私に何か用でもあるのかな?」

 僕は本題を思い出し、気持ちを整えた。

「あの、じつは、恋に悩んでいます。同じ大学に通う未希にどう告白したら良いか

悩んでいます。ブッコローが恋愛成就のスペシャリストという噂を聞いたので、あなたを探していました」

「なるほど、そういうことか。私に任せなさい」

ブッコローは茶色の翼で胸を叩き、右の翼に抱えた本をめくり始めた。きっと、何か秘策が書かれているのだろう。僕は、はやる気持ちを抑えて、ブッコローが調べ終わるまで待った。

 時間にして、数十秒だろうか。僕にとっては、もっと長い時間が経過したように感じた。抱えていた本をゆっくりと閉じたブッコローは僕を見つめて、ゆっくりと嘴を開いた。

「デートは競馬場がいいと思うよ。あと、プレゼントはキムワイプがお薦めだよ」

 ブッコローは綺麗な瞳で僕を見つめてくる。競馬場とキムワイプか、僕一人で悩んでいたら、きっとこの答えには辿り着かなかったにちがいない。

 僕はブッコローに感謝の気持ちを伝えるために、襟を正した。

「ブッコローありがとう!予想外の答えだったけど、とても新鮮だったよ。ところで、キムワイプはこの書店で買えるのかな?」

 せっかくブッコローが僕に提案してくれたプレゼントだから、僕は買って帰ろうと思った。そんな僕の考えを知ってか知らずか、ブッコローは少し気まずそうに答えてくれた。

「えっと、この書店では、キムワイプは取り扱っていないよ」

 僕は、ブッコローが自分の書店の商品以外を薦めてくる姿勢に感激してしまった。

 既得権益に縛られないブッコローの考えには見習うべき点が多いと感じた。

「そうなんだね、ありがとう!ブッコロー。また、キムワイプはどこかで探してみるよ」

 僕は軽快な足取りで書店を後にした。

 桜の花びらが空を舞う爽やかな午後だった。

(了)

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