第2話

 大学時代の同級生だった。それ以外特に接点はなかったから、同窓会で、大手の営業マンとしてうまくやっている、と自信満々に話していたのを見かけた時も、あんな奴いたっけか、と首を傾げた。



 その自信も、関係の希薄な奏恵へ言い寄るきっかけの一つになったのだろう。安く見られている感は否めなかったが、彼に話しかけていた他の女たちを差し置いて自分のところに来たので、悪い気はしなかった。



 食事は毎回奢ってくれた。デートの度にプレゼントを用意してくれた。



 それを喜び、奏恵が誇れたのは、最初の数日に過ぎない。



 その日の店は、奏恵が嫌いな味付けをする店だった。あの料理は私の口に合わなかった、と言ったら、次のデートで同じ店を予約した。別の料理なら口に合うかもしれないから、と言って。



 ある日のデートでは、高谷は終始不機嫌だった。先日にプレゼントしたブローチを奏恵が付けてこなかったからだった。



 虚栄心、承認欲。それが高谷を占める大半だった。



 自分を認めない相手には、認めるまでアプローチを続ける。その我を押し通す強さは、仕事の上では偶々うまく働いたが、こと人間関係においては全くの逆効果であった。



 思えば同窓会で高谷が奏恵を標的に定めたのも、自分に言い寄っていなかったからなのだろう。高谷章雄にとって、奏恵は彼を照らすスポットライトの一つでしかなかった。

 それが自分の方を向いてないから、操作しようとしていただけに過ぎない。



 結局四回目のデートを最後に、二人は会っていない。



 高谷からの誘いを素気無く断るうちに、向こうのほうから別れを切り出してきた。自分の方を向かないなら捨ててしまえ、ということだ。



 願ってもないことだった。自分から振るよりも後腐れがないと、その時は思っていた。



 だがこうして連日届くメールを見て、それが間違いだったと思い知らされる。



 こちらは相変わらずだ。そっちは寂しくないか。この間二人で行ったあの店がメニューを一新したらしい。興味があるなら時間を作る。いつでも連絡していい……



 世間話を装った、よりを戻してやってもいい、という傲慢な意志。自分が振った相手は、今でも自分のことを悪からず想っているはずだ、という勝手な思い込み。



 あの男と縁を切るには、こちらから別れ話をするべきだった。思えば、こんなプライドの塊のような男が、自分を振った女の尻を追いかけるなんて惨めな真似、許すはずがないのだから。



 もはやメールは開封すらせず捨てている。今回も同じく。

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