1-2

玄関の呼び鈴が鳴る。


S.A.「はぁーい」


S.A.は、ゆっくりとドアを開けた。


ガチャッ、ギィー。


巨大な猫が、ドアの前に立っている。


S.A. は少し驚いたが、すぐに冷静になって尋ねた。


S.A.「あんた、誰?」


猫「『あんた、誰?』って、そりゃないんじゃないでありんすか?…あちきですよ、あ・ち・き。和ネコの丼(どん)でありんす。丼と書いて『ドーン!』でありんす」


S.A.は、思わずため息をついた。


S.A.「それが、私とどういう関係があるの?私とあなた、知り合い?そんなわけないでしょ」


S.A.は、そう呟きながら、手で丼を追い払う仕草をする。


丼「もちろん、でありんすよ。この前も那古屋城で会ったでありんす」


S.A.「ところで、あんた、『ありんす、ありんす』って…そのしゃべり方、何とかならないの?…それに、私、生まれてから一度も名古屋城なんて行ったことないわよ」


丼は、驚いて次のように言った。


丼「えーっ!?そうでありんすか?確かそこには、織田何とかいう人が住んでいて、その城の中庭の見える廊下で、庭を見ながら、あちきの背中を撫でてくれたりしたじゃないでありんすか」


S.A.「織田?…って、もしかして織田信長のこと?」


丼「えーっと…」


丼は、しばらく考えてから言った。


丼「違うでありんす。確か信秀さんだったでありんす。あちきの飼い主は、その妹さんの碧(あおい)姫さんでありんす」


S.A.「信秀って、確か信長のお父さんじゃなかったっけ?」


丼「そうでありんすか?知らないでありんす」


丼は、とぼけてそう言った。


S.A.「それにしたって、もう何年経っているのよ、あなたと会ってから…」


丼「そうですね…480年程だと思うでありんす」


S.A.「480年!!」


丼「そうでありんすよ」


S.A.「生きてるわけないでしょ!」


丼「そうでありんすか?間違いないと思ったでありんすが…。だって…」


丼は、突然S.A.の身体に鼻を押しつけ臭いを嗅ぎ始める。


丼「クンクンクン……あなたのこの臭い…間違いないでありんす」


S.A.「勝手にひとの臭いを嗅ぐなー!」


S.A.は、丼に思い切り顔面パンチをし、丼は、床に倒れた。


丼は、しばらくして、起き上がると悲しそうに言った。


丼「痛いでありんす。昔のように優しくして欲しいでありんす」


と言って、S.A.の膝に無理やり飛び乗った。


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