メギドラムオンライン〜無趣味な俺の活動記録〜

藤本敏之

第1話

親戚のおじさんから少し大きめの箱が届いたのは、夏休みが始まる3日前の日曜日の昼頃だった。

「…?」

叔父との中は悪くないし、どちらかというと良好と言っていい。元々運動するわけでもなく勉強が出来るわけでもない。何もかも宙ぶらりんな木崎遼太郎には大きな欠点があった。無趣味である。勉強は授業を受けて宿題は忘れない程度、学校のクラブ活動は中学、高校、大学と帰宅部を貫いている。二十歳の誕生日が3日後、即ち夏休み開始日だからこそ、おじさんも送ってきたのだろうと思って、遼太郎は電話をかける。勿論相手はおじさんだ。プルルルッと鳴る受話器から、次の瞬間笑い声が聞こえる。

「ハッハッハッ、遼太郎。無事に荷物はとどいたか!」

「お久しぶりです、晋作おじさん。」

木崎晋作、遼太郎の叔父は母の兄で、ゲーム会社を運営している。母から今度新作のゲームが出るとは聞いていたが…

「遼太郎、お前の母、美咲から無趣味なお前に何か熱中出来るものを与えて欲しいと頼まれたからな。なに、俺としてはゲームの駄目な点やバグ等正直に答えてくれるプレイヤーが欲しいんだ。」

「はぁ…」

「今流行のVRMMOでな、まだまだ新規参入で解からん所も多いから、盛大にやってくれ。勿論、学業も疎かにせんように。」

「解りました。でも…」

「どうした?」

「オンラインゲームって、お金が…」

「安心してくれ、ハードとソフトだけで遊べる。通信費はかかるが、お前の家は電話回線かけ放題にしてあるだろう?」

「おじさんがしていったからね。」

「だから大丈夫だ。解らん事は説明書を同封しておいたし、先ずは手探りでやってみろ。じゃあな。」

そう言って、一方的に切ってしまった。夏休みは夜バイトで居酒屋を経営している両親の手伝い以外には予定も無いので、遼太郎は仕方なく箱を開けてゲームの準備をする。箱の中には最近流行りのVRセット一式と、

「メギドラムオンライン」

と書かれたカートリッジがあった。叔父は知っている、梱包された荷物を見ただけで遼太郎が嫌がるのを。最低限のシートだけ被さったVRセットとカートリッジを取り出すと、箱の底に百科事典並の大きさの取り扱い説明書があった。恐らく遼太郎の事を理解してだろう、一部のページに付箋紙が挟まれてあった。元々読解力はある方なので、必要なページを読み、空いた時間で読み漁った。フルダイブ型のメギドラムオンラインでは、多少の痛覚もあるらしく、死に至る事はなくとも苦痛はあることなども理解し、夕方頃居酒屋の手伝いをする。

「で、晋作兄さんから貰ったの?」

「そう…みたい。」

「あなたに趣味が出来ると良いわね。」

両親も遼太郎の無趣味には困っていたので、晋作に相談したほどなのだ。ゲームには肯定的である。時間を決めて、やってみようと遼太郎は考えていた。


早いもので遼太郎が説明書を読み漁り、漸く終わった頃には配信日の朝8時だった。ゲーム開始は10時なので、遼太郎はVRゴーグルやケーブルなどを繋いでベッドに横になる。ヘッドギアの起動ボタンを押すと、一気に意識は深く落ちていった。


視界が開くと、そこには真っ白な空間が広がっていた。正面に机と椅子があり、その奥にツインテールの女の子が立っていた。

「ようこそ、メギドラムオンライン登録所へ。先ずはお座り下さい。」

そう言われて遼太郎は椅子に座る。

「今から言語能力などを測らせて頂くために、軽い試験をしてもらいます。準備はよろしいですか?」

そう言われ、遼太郎は頷く。目の前の机の上にはタブレットとタッチペンが置かれており、それを操作していく。1時間ほど入力していただろうか、タブレットに終了の文字が出た。

「お疲れさまでした。あなたは適正有りと判断されました。メギドラムオンラインを楽しんで下さい。」

そう言われて遼太郎は席を立つと、椅子と机が消えて、目の前にタブレットの画面のような物が浮かび上がる。そこには「容姿を選択してください」と書かれていた。

「自由に決められるのか…」

それでも遼太郎は今の容姿のままに選択する。

「次は…職業?」

ファイター、モンク、タンカー等、様々な職業が写し出される。いずれも一長一短である。ファイターはお金がかかるし、モンクは装備が少ない、マジシャンは非力等、制限がかかるのである。

「…?」

遼太郎が職業の項目を見ていると、「ランダム」と書かれた項目を見つけた。

「どうせなら…」

と、自動で決まるようにした。職業選択が終わると、丁度時間になったようで、

「それではメギドラムオンラインの世界をお楽しみください。」

そう書かれて、再び遼太郎の視界は真っ暗になった。

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