第7話 決戦
シンは走った。世界を救うために。もう遅いかもしれないが、それでも、いま、無防備に戦えば
「シン!」
フレイアが立ち止まった。手をつないでいたシンも引き留められた。
「こ、これは!」
いつの間にか無数のインシデントがシンとフレイアの周囲を囲んでいた。
(こんなバカな。こんなに多数のインシデントが一度に出現するなんて)
フレイアとシンの頭に声が流れた。
『シン、フレイア、悪いことは言わない。ここは下がり給え』
(デザイア、だな)
あの日、シンがデザイアを召喚したあの日、考えてみれば召喚した
『そうだ。キミが推察した通りだ、シン。わたしは人間の手になる
(インシデントだと?インシデントが
『キミたちが目にしているインシデントはごく一部に過ぎない。インシデントは知性のない怪物の集団ではないのだ、シン。ワタシの使命は、シン、キミを篭絡または殺害して無力化することだ。素体たる少女の肉体を破壊してもまた次の少女が用意されるだけだろう、シン。この件の鍵は少女の方ではないのだよ、シン。君たち自身、君たち自身の特性なのだ。君たちこそが我々インシデントにとって滅すべき対象だったのだ。
ワタシが最初に具現した時のことを覚えてるか、シン。ワタシはインシデントと言葉を交わしただけでインシデントを退けた。あのときワタシはインシデントは同族の殺害を忌避するから、彼らの言葉を話すワタシを殺すことに躊躇を覚えたからと説明しただろう?だが、実際はそうではない。ワタシはあの時、人型のインシデントにワタシの使命を告げただけだ。彼らの言葉で。そしてあの人型のインシデントは、もはやキミたち二人を、殺害する必要がなくなったことを正しく理解しただけのことだったのだ、シン』
(じゃあ、デザイア、キミは)
『そうだ、シン、だから下がってくれ。キミたちを殺すことは本意ではない』
(お断りだ!)
『そうか、残念だよ、シン』
インシデントたちがじりじりと間を詰めてくる。
「シン、いま戦ったら」
そう、いま戦ったら。デザイアによって自分たちの想いに気づいてしまった
「聞いてくれ、僕の中の
シンはいまやっと理解した。
「キミたちみんなが好きなんだから!」
そして目を閉じ、いまはフレイアが入っている素体に口づけた。いつもの召喚に伴う意識のホワイトアウトがシンを襲った。シンは意識が薄れるのに必死に抗いながらついさっきまでフレイアが召喚されていた素体の手を握り締めた。出てくるのはだれなのか。不思議にもう誰でもよくなっていた。こうなったのは全部自分のせいだった。彼女たちの想いに気づけなかった自分の。
グイっと力強くシンは引き起こされた。
「レイか?それとも」
素体はシンにむかってにやりと笑いかけた。シンは戸惑った。こんな笑い方をする
「ボクは全部だ、シン!」
その言葉を合図に一斉にインシデントがとびかかってきた。それからはまるでスローモーションの様だった。素体はレイがするように生成系AIモジュールを召喚し始めた。だが、その数は一個ではない。無数のモジュールを召喚している。
人型インシデントがクエリーを投げてくる。
【ウィリアム3世の治世はいるからいつまで?】
素体は苦も無く答える。
【1650年から1702年まで】
無数のインシデントが投げかけるクエリーを素体は次々と跳ね返していく。
【シュヴァルツシルト半径の定義を述べよ】
【ヒルファーディングの金融資本論の概要を100字で述べよ】
ありとあらゆる分野のありとあらゆるクエリーが雨あられと降り注いだが、素体はそのすべてに応え、そして反撃を繰り返した。シンがふと我に返ったとき、もはや周囲に一体のインシデントも残ってはいなかった。
『こんなバカな。
頭の中に響くデザイアの声に素体が答えた。
「できなかったさ、たった今まで。でも、デザイアが招いた危機をシンが乗り越えてくれたから。ボクらを誰一人不幸にしないと誓ってくれたから!ボクらは全員同時に召喚されることができたんだ!」
それから素体はシンを振り返って笑いかけた。
「ありがとう、シン。キミのおかげですべては変わったんだ。僕たち
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