呆れる

あずき

第1話


 酒に酔った人間、特に酒癖が悪い人間というのは心底厄介な生き物だ。すぐ絡む。酒に溺れている間は陽気でも、酒が切れれば人が変わったかのように少しの物事に怒り狂う。


 「27件、か」


夜の闇の中、ある家の屋根の上に座っている一人の人物。その人物は携帯のような物を右手に持っていた。その画面に表示されていた[本日は27件、20人]の文字。街中をパトカーであろう白と黒地の色の車の上に赤ランプをつけた何台もの車が行き交う。


 「今日は何件ありましたか?」

 

 背後から声がし、屋根に座っていた者は後ろを振り向く。表情を緩ませた。


 「27件、20人」

 「そうですか。多いですねえ相変わらず」

 

 そう口にした背後の者は、心底楽しそうであった。座っている者の左隣へ行き同じように座る。


「しかしまあ、お酒ってすごいですね。こんなにも人を狂わせるなんて…、一体誰が作ったんでしょう」

「人間だろう」

「あ、そうでした」


あは、と笑う左の者に右の者はため息を吐いたあと、ぽつりと呟いた。


「 あー…、失敗だったなあ」

「なにがですか?」

「すべて」


右の者は頭を抱えた。この世界を創ったことも、人間を創ったことも。始めて創ったこの世界。頭を何度も捻り、懸命に創った。最初はよかったのだが、いつからかおかしな方向へと進んでいっていた。――人間が技術を持つようになってからだ。

人間は恐ろしい。物事を何度も吸収し、酒も作ってしまった。人を狂わせ、死へと追いやる禁断のものを。


「あー、もう見てらんねえ。滅ぼす」

「おや、あなたにしては待ったほうですね」

「すぐ戻るかと思ったがもう限界だ。狂った人間の言い訳なんて聞きたくない」

「狂った人間とは…随分荒れてますね」


左の者はくすくすと笑った。


「でもまあ、確かに狂った人間の言い訳は心底呆れましたけどね。「ついかっとなって殺してしまった」とか、「むかついたから」とか。少し違いますが飲酒運転なんてのはもってのほか。死んだ方は報われませんよ」

「酒だけじゃなく性格にも難がある輩が腐るほどいるな。本当に申し訳ないよ…。もう二度と存在してほしくないね」


右の者の言葉に左の者はにやりと笑った。






 「さて、この醜い世界も滅んだことですし、次はどんな世界にしますか?」

 「人間の居ない世界だ」



     

      【呆れる】 終


※補足 

 件名…酒を飲酒した人間が事件、事故を起こした件数。

 人数…巻き込み、巻き込まれ死んだ人間の数

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呆れる あずき @AZU-mitu

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