帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます

第6話 高ランカーパーティ結成！

　この国（くに）は数年前（すうねんまえ）まで、王国（おうこく）の統治下（とうちか）で安寧（あんねい）と平和（へいわ）を享受（きょうじゅ）していた。

　帝国（ていこく）軍（ぐん）の侵攻（しんこう）で、それは脆（もろ）くも崩（くず）れ去（さ）った。

　帝国は魔王（まおう）を復活（ふっかつ）させ、魔王配下（はいか）の魔物（まもの）の力を借（か）り、圧倒的（あっとうてき）な強（つよ）さで王国を征服（せいふく）した。国には魔物が溢（あふ）れ、秩序（ちつじょ）は失（うしな）われてしまった。

　魔物が見境（みさかい）なく人間（にんげん）を襲（おそ）い、人間は砦（とりで）みたいな町を造（つく）って身（み）を守る、無法（むほう）の世界（せかい）がここにはある。

　　　◇

　小砦（しょうとりで）ジフトのハンターギルドに来（き）た。

「お待（ま）ちしておりました。ピンクハリケーン、ユウカ様（さま）」

　受付（うけつけ）カウンターにいる受付嬢（うけつけじょう）が、ニコやかな笑顔（えがお）で声（こえ）をかけてきた。

　前回（ぜんかい）と同（おな）じ人だ。肩（かた）までくらいの長（なが）さの金髪（きんぱつ）さらさらストレートヘアを六四分けにした、化粧（けしょう）美人（びじん）の大人（おとな）の女の人だ。ギルドの事務的（じむてき）な紺色（こんいろ）の制服（せいふく）が似合（にあ）う、仕事（しごと）のできる雰囲気（ふんいき）だ。

「ロック鳥（ちょう）の討伐（とうばつ）メンバーの皆様（みなさま）も、集（あつ）まっていらっしゃいます」

「思（おも）ったより、早（はや）かったわね」

　アタシは、何も考（かんが）えずに答（こた）えた。

　アタシはユウカ。まだ十六歳（さい）の可憐（かれん）な少女の身（み）でありながら、ハンターギルドに所属（しょぞく）し、魔物（まもの）の討伐（とうばつ）を生業（なりわい）とする。

　武器（ぶき）は、両刃（りょうば）の大斧（おおおの）を愛用（あいよう）する。防具（ぼうぐ）は、急所（きゅうしょ）と関節（かんせつ）を金属鎧（きんぞくよろい）で守る、白銀（はくぎん）のハーフプレートである。

　女にしては背（せ）が高く、女にしては筋肉質（きんにくしつ）で、パワータイプの近接（きんせつ）戦士（せんし）である。胸（むね）はない。ピンク色（いろ）の長髪（ちょうはつ）で大斧（おおおの）を振（ふ）りまわす戦（たたか）い方（かた）から、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼（よ）ばれる。

「一人で討伐（とうばつ）に行かずに済（す）んで、良（よ）かったわ」

　町の人たちと協力（きょうりょく）してラムライノスを退治（たいじ）してから、一週間（いっしゅうかん）が経過（けいか）した。町はだいぶ落（お）ち着（つ）いた。アタシの気落（きお）ちもだいぶ浮上（ふじょう）した。

「家畜（かちく）の被害（ひがい）が出始（ではじ）めていまして、一日（いちじつ）を争（あらそ）う事態（じたい）になりつつあります。このような状況下（じょうきょうか）でも問題（もんだい）なく集（あつ）まっていただけたこと、ギルドとしても感謝（かんしゃ）の念（ねん）に堪（た）えません。さすがは高（こう）ランクハンターの皆様（みなさま）ですね」

　受付嬢（うけつけじょう）が笑顔（えがお）で同意（どうい）した。

　周辺（しゅうへん）に強（つよ）い魔物（まもの）が増（ふ）えつつある特異（とくい）な状況（じょうきょう）である。砦間（とりでかん）の移動（いどう）の危険（きけん）は増（ま）し、乗合（のりあい）馬車（ばしゃ）が出（で）ないこともあり得（え）る。依頼（いらい）は受（う）けたがジフトに行けない、となっても誰（だれ）も文句（もんく）は言（い）えない。

　でも、依頼（いらい）を受（う）けた全員（ぜんいん）が、ここに集（あつ）まった。アタシを含（ふく）めて、合計（ごうけい）四人と聞（き）いた。

　一人は、身長（しんちょう）二メートルはあるマッチョの巨躯（きょく）の大男（おおおとこ）で、鈍（にぶ）い鉄色（てついろ）のフルプレートメイルで全身（ぜんしん）を覆（おお）い、その巨躯（きょく）をも隠（かく）す大きさのタワーシールドを背負（せお）う。知（し）ってる。ランクＳハンターで、『フォートレス』の二つ名で呼（よ）ばれる。

　この大男は、騎乗（きじょう）前提（ぜんてい）のフルプレートを着（き）て、機動性（きどうせい）を捨（す）てたタワーシールドを持（も）って、徒歩（とほ）で戦（たたか）う。馬（うま）に乗（の）らず、ガッチャンガッチャンと鎧（よろい）を鳴（な）らして歩（ある）き、防御（ぼうぎょ）に味方（みかた）のカバーにと活躍（かつやく）する。

「やはりオヌシもおったか、ピンクハリケーンよ。ワシとオヌシ、よくよく縁（えん）があるとみえる」

　フォートレスが、重低音（じゅうていおん）で声（こえ）をかけてきた。

　相変（あいか）わらず、表情（ひょうじょう）が読（よ）めない。フルフェイスのヘルムを被（かぶ）っていて顔（かお）が見えないから。

「アタシは、実績（じっせき）があるから、こういう難（むずか）しい魔物（まもの）討伐（とうばつ）に呼（よ）ばれやすいだけよ。アンタだって、不落（ふらく）の前衛（ぜんえい）として呼ばれたんでしょ、フォートレス？」

　アタシは、反応（はんのう）薄（うす）く答（こた）えた。

　マッチョには興味（きょうみ）ない。華奢（きゃしゃ）なイケメンが好（す）きだ。

「ピンクハリケーン、フォートレス、二人とも、知（し）ってる。素手（すで）で魔物（まもの）を倒（たお）す、人間（にんげん）離（ばな）れした有名（ゆうめい）ハンター。おら、尊敬（そんけい）、おら、目標（もくひょう）」

　白（しろ）い羽飾（はねかざ）りで全身（ぜんしん）を飾（かざ）った、筋肉（きんにく）半裸（はんら）に革（かわ）ジャケット革（かわ）パンの男が、片言（かたこと）で同意（どうい）を示（しめ）した。田舎（いなか）でのんびり生きてそうな、朴訥（ぼくとつ）とした口調（くちょう）だ。

　この辺（あた）りを活動（かつどう）拠点（きょてん）にしていた遊牧民（ゆうぼくみん）だ。派手（はで）な民族（みんぞく）衣装（いしょう）のおかげで有名（ゆうめい）だ。かつては、こんな感（かん）じの男女が馬（うま）に乗（の）って草原（そうげん）を駆（か）ける、みたいな光景（こうけい）がよく見られた。

　ちなみに、筋肉（きんにく）半裸（はんら）も、その遊牧民（ゆうぼくみん）の特徴（とくちょう）だ。女も筋肉半裸で、革（かわ）ジャケットに革（かわ）のミニスカートで、馬（うま）に乗（の）っていた。

　モンスターの蔓延（はびこ）る今（いま）となっては、見ることのない光景（こうけい）である。彼（かれ）らもまた、壁（かべ）に守られた町の中に生きる。

「おら、サウク族（ぞく）の戦士（せんし）、ロニモー。一緒（いっしょ）に戦（たたか）える、感激（かんげき）。よろしく頼（たの）む」

　日焼（ひや）けしたゴツい手で、握手（あくしゅ）を求（もと）められた。

「ロニモー様（さま）は、ランクＢのハンターです。実績（じっせき）不足（ぶそく）ゆえのＢ評価（ひょうか）ですので、実力（じつりょく）はＡハンターに見劣（みおと）りいたしません。ハンターギルド一押（いちお）し、当（とう）支部（しぶ）が今（いま）全力（ぜんりょく）で売（う）り出（だ）し中の新人（しんじん）ハンター様（さま）ですね」

　受付嬢（うけつけじょう）が、笑顔（えがお）で、横（よこ）から補足（ほそく）した。

　ロニモーを観察（かんさつ）する。味方（みかた）にしても敵（てき）にしても、観察（かんさつ）し、把握（はあく）するのが大事（だいじ）である。

　武器（ぶき）は、身長（しんちょう）と変（か）わらない長（なが）さの、太（ふと）い金棒（かなぼう）を背負（せお）う。いかにも強（つよ）そうだし、いかにもハンターらしい。

　ある程度（ていど）ランクの高（たか）い魔物（まもの）ハンターは、特別（とくべつ）な武器（ぶき）を持（も）ちたがる。自警団員（じけいだんいん）とか、軍属（ぐんぞく）とか、新人（しんじん）ハンターと見分（みわ）ける目印（めじるし）にもなる。

　特別（とくべつ）な武器（ぶき）とは、特注品（とくちゅうひん）だったり、魔力付与（エンチャント）品だったり、魔物（まもの）が持（も）っていたりダンジョンで入手（にゅうしゅ）したり、といったレア度（ど）の高（たか）いものだ。廉価品（れんかひん）なんぞよりも強（つよ）いし、格好（かっこ）いい。

　アタシの大斧（おおおの）も特注品（とくちゅうひん）で、強（つよ）くて大きい。強いハンターが持（も）ってる武器（ぶき）は、だいたい大きい。大きい武器を持っていれば、高（こう）ランクハンターだと分かる。

「アタシは、ピンクハリケーン、ユウカよ。頼（たよ）りにしてるわ、ロニモー。よろしくね」

　アタシは、ロニモーの金棒（かなぼう）をチラチラと見ながら、握手（あくしゅ）した。悪（わる）くない金棒だ。

「ワシは、フォートレスだ。よろしく頼（たの）む」

　フォートレスも、鈍（にぶ）い鉄色（てついろ）のガントレットに覆（おお）われた手を差（さ）し出（だ）した。ロニモーが躊躇（ちゅうちょ）なく握手（あくしゅ）した。

「ふむ」

　アタシは考（かんが）える。

　とりあえず、パーティの二人がマッチョの男だ。マッチョには興味（きょうみ）ない。華奢（きゃしゃ）なイケメンが好（す）きだ。

　しかし、考（かんが）えようによっては、悪（わる）くない。マッチョの男二人と一緒（いっしょ）にいれば、アタシが相対的（そうたいてき）に小柄（こがら）で華奢（きゃしゃ）に見えるかも知（し）れない。通（とお）りすがりの華奢（きゃしゃ）なイケメンが、アタシを傍（はた）から見る状況（じょうきょう）を鑑（かんが）みれば、このパーティは悪くない。

　笑（え）みが漏（も）れる。自分が都合（つごう）よく一目惚（ひとめぼ）れされる妄想（もうそう）をする。

「それで、最後（さいご）の一人は誰（だれ）なの？　こっち三人は近接（きんせつ）だけだし、ロック鳥（ちょう）退治（たいじ）の主力（しゅりょく）になる人よね？」

　アタシは、妄想（もうそう）の笑（え）みのまま受付嬢（うけつけじょう）に聞（き）いた。

　カタン、と木のイスが鳴（な）った。近（ちか）くの待合席（まちあいせき）に座（すわ）っていた男エルフが、立ちあがってこちらを見た。

「俺（おれ）がパーティの四人目、『天（てん）を貫（つらぬ）く矢（や）』スピニースだ。有象無象（うぞうむぞう）のハンターでも、二つ名くらいは聞（き）いたことがあるだろう？　数多（あまた）の弓手（ゆみて）の中でもトップクラスと自負（じふ）する弓矢（ゆみや）で、ロック鳥（ちょう）狩（が）りのメインを務（つと）めさせてもらう」

　エルフだ。落（お）ち着（つ）いていて、何処（どこ）か陰（かげ）のある声音（こわね）で、自信（じしん）に満（み）ち満（み）ちた傲慢（ごうまん）な口調（くちょう）だ。

　緑（みどり）色の長い髪（かみ）で、右目は前髪（まえがみ）に隠（かく）れる。長身（ちょうしん）で華奢（きゃしゃ）な肢体（したい）をタイトな服（ふく）が包（つつ）み、黒（くろ）い革鎧（かわよろい）で急所（きゅうしょ）だけを守る。動（うご）きやすさ重視（じゅうし）の軽装備（けいそうび）アーチャーだと、見て分かる。

　待合席（まちあいせき）に立てかけられた弓（ゆみ）は、大きい。フォートレスの身長（しんちょう）よりも長い。植物（しょくぶつ）の蔓（つる）を模（も）した装飾（そうしょく）もある。

　これは期待（きたい）できる。素晴（すば）らしい。

　エルフという亜人種（あじんしゅ）は、弓の名手（めいしゅ）だ。人間では遠（とお）く及（およ）ばない。

　弓がレア品（ひん）だと一目で分かる。大きいし、装飾（そうしょく）が入（はい）ってる。

　そして何より、このスピニースと名乗（なの）ったハンターは、華奢（きゃしゃ）なイケメンエルフだ。

「華奢（きゃしゃ）なイケメンエルフ来（き）たーーーーー！！！！！」

　アタシは、天にも昇（のぼ）る嬉（うれ）しさに、興奮（こうふん）して、心（こころ）の内（うち）を叫（さけ）んだ。

「ガッハッハッ！　守（まも）り甲斐（がい）のありそうなヤツがおって良（よ）かったわい」

　フォートレスも、何だか嬉（うれ）しそうに笑（わら）っていた。

帝国（ていこく）に征服（せいふく）されて魔物（まもの）が蔓延（はびこ）る国（くに）で女だてらに魔物ハンターやってます

第6話　高（こう）ランカーパーティ結成（けっせい）！／ＥＮＤ