白兎の縁結びなおし
満天星
第1話 白兎の願い
「ありがとう、白兎さん! さっすが、縁結びの神社だね! お参りしてよかった!!」
参拝に来ていた若い娘の喜びの声が聞こえる。むろん、心の声ではあるが。
娘の弾む声音と嬉しさを隠しきれない笑顔に、胸の奥で苦いものがこみあげてきた。
(ああ、あのお方もこのように喜んで下さっていたな……。)
『ありがとう、白兎。あなたのおかげよ。おかげで私、とてもお優しい素敵な旦那さまと巡り会えたの。』
ふとよぎるのは、艶やかな黒髪を揺らして嬉しそうにはしゃぐ姫の面影。忘れたくても忘れられない、遠い日の記憶。ーー自分の、罪の記憶だ。
だからだろうか。聞こえないとわかりつつも、白兎は目の前の娘に返事をした。
「礼には及ばぬよ、これはただの罪滅ぼしだからな。」
そう、これはただの罪滅ぼし。いわば自己満足にすぎない。
姫を誰よりも愛していた自分が、よりによって姫を不幸にするあんな男と縁を結んでしまったのだ。どれほど悔やんでも悔やみきれず、何度も何度も時を戻したいと願った。
「罪滅ぼし、か。だがそなたのおかげで一族が絶えずにすんだと喜んでいる者もいるのだぞ?」
しゃなりしゃなりと衣ずれの音がして、白兎の前にはえらく神々しい女が一人立っていた。いつの間にか若い娘の姿はすでになく、そこには白兎と女だけになっていた。
「あなた様は……?」
白兎の知り合いではない。こんな神々しい女が知り合いにいるわけがない。自慢ではないが、白兎は神としてそんなに偉いほうではないのだ。あの古事記のおかげで、多少は有名ではあるけれど。
首をかしげる白兎に、女はどこか誇らしげに胸を張る。
「私か? 私は
聞いたことも何も。日ノ本で一番偉い神様ではないか。白兎とは、比べ物にならないほどの。
白兎など簡単に
「し、失礼いたしました……!」
「よいよい、あまりかしこまるな。私はただ、お前に感謝している神たちの代わりに出向いたまで。」
「お前には、彼らの代わりにひとつ礼でもしてやろうかと思っていたのだが……うむ、決めた。喜べ白兎、お前の望みを叶えてやろう。」
思ってもみなかった女神の宣言に白兎はきょとんと目を瞬かせた。
「え? あ、ありがとうございます。」
「うむ、その代わり縁結びの仕事にいっそう励むように。よいな?」
何の願いを叶えてもらえるのかを尋ねる暇もなく、それどころか女神の問いに答える暇さえなく、白兎の視界をまばゆい光が包んだ。
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