レティシアの幸運の竜は、随身と語らう
「アルノー達が難儀しているようなので、まだディアナに潜伏しているリリア僧の性質の悪そうな者は、僕が送り返そうかな?」
レティシアの幸運の竜の名誉を得たフェリスは、自室で随身レイ相手にそんな話をしていた。
「フェリス様の転移の魔法をそのような者達に使われるのですか? もったいな……いえ……過ぎた果報……そんな無粋な者共は、長時間移動がとても身体に堪えるボロ馬車か、船底の抜けそうな船で充分……いえ……フェリス様のお身体に触ります」
基本的にレイは穏やかな青年であるが、主人至上なので、ガレリア王もリリア僧も、我が家のフェリス様とレティシア姫の御婚儀というこの世紀の一大祭典に対して、邪魔な者達がうっとおしくて仕方ない。
「何ということもないよ。レティシアが来てから、僕はとても元気だし……」
「そういえば、フェリス様、遠隔でリリア神殿など破壊されたのに、とてもお元気ですね」
フェリスはもともと魔力の強い人ではあるが、それにしてもここのところ魔力の波動が増してきている。それをずっと近くにいるレイは肌で感じている。
「レイ。僕はやってないから、そんなこと」
にっこり、フェリスは微笑した。それで通したいんですね、とレイは肩を竦める。
「さようでございますか。そうですね。レティシア様が心配されてましたしね、神殿が壊れたら民がお嘆きだろうと……」
「うん。優しい妃に怒られるようなことはしない。可能な限り」
「リリア僧の首根っこ掴んで本国に強制送還はよいのですか?」
「何も首をとろうという訳じゃないから、平和的だと思うんだが、どうだろう?」
「そうですね。リリア僧のことでも気になることもいくつかございますし、少しマリウス陛下とお話しされては? レティシア様がお手紙差し上げましたが、きっと陛下は、シュヴァリエでフェリス様がマグダレーナ様の仕打ちに辛い想いをされてないか、御心配では」
「そうだね。兄上は、サリアからのレティシアの呪いの姫騒ぎにも、レティシアを守るようにと口添えしてくれたそうなので、僕からも直接御礼を申し上げたいな……。そう言えば、レティシアのことで忙しくしていて、義母上のことを忘れてたな」
「それはよい傾向かと」
マグダレーナ王太后からフェリスが謂われなき謹慎を言い渡されたことは、レイとしては決して忘れられるようなことではないが、それでもフェリスの心がマグダレーナよりレティシアの心配で忙しいのはいいことだ。
長年どれほどの真心を捧げても、返してもくれぬ義母よりは、これから妃になるレティシア姫の故郷からの汚名を雪ぐことの方がずっと大事だ。
「長いつきあいになるだろうから、義母上がレティシアに少しは優しくしてくれるといいんだけど……僕の妃というので、辛くあたられたらレティシアが可哀想だ」
「………」
「レイ? 何だい、おもしろい顔をして」
「いえ。レティシア姫を気遣うフェリス様があまりにお可愛らしくて。レティシア様は偉大だなあ、とレイは感じいっております」
「……? 僕は可愛くないけど、レティシアは偉大だよ、確かに」
おかしな奴だな、と奇妙がるディアナの神そっくりの美貌のフェリスの人間らしい表情を、愛し気に乳兄弟でもあるレイは見ていた。
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