第328話 サリアの災いを呼ぶ姫 25

「歌声?」


綺麗な旋律だ。レティシアには馴染のない曲だけれど、レーヴェ様への讃美歌なのかな? 


複数の男女の声が和している。


「はい。ちょうど音楽の時間で」


「魔法以外の授業もあるのですね」


魔法学校というと、魔法を集中的に習うのかと思っていた。


「はい。通常の生活を知らずに、魔法は学べませんから。」


日本でなら、中学生か、高校生位かな? の生徒さんたちが何十人もで合唱している。


いかにも学校てかんじ! 学校らしい雰囲気が、なんだか懐かしいー。


「フェリス様とレティシア様の結婚式の日は、シュヴァリエは全土で御祝いの日になりますから、魔法の家ではこの歌を歌って、御二人に祝福を捧げます。その練習です」


「……私達の結婚式の為に?」


きらきらと旋律が光を纏ってレティシアの小さな身体に纏わりつく。


とこしえに栄えたまえ、美しきディアナよ、我らが神、優しき竜の神の守護のもとに。


なんだかこんな荘厳な讃美歌をお聞きすると、いつもフェリス様が困ったお兄ちゃん扱いしてる竜王陛下がの偉大さが急にアップ! 


「そうですね。当日は御二人は王都のレーヴェ神殿でお忙しいですから、今日、触りだけでも、レティシア姫が耳にしてくださったと知ったら、皆、喜びますよ」


「フェリス様は本当に愛されてらっしゃるんですね」


「フェリス様はああいう御方ですから、最初、派手な事は必要ない、と御遠慮なさってたんですけど、御祝いしたいです、お祭りしたいです、たった一度の大切なフェリス様の結婚式を私達にも祝わせて下さい、と皆に泣きつかれたのです」


「ああ……」


うん。それは凄く想像がつく。ごはんと一緒で、フェリス様は自分のことは省略しかけそう……。


「幼いレティシア姫が、王宮に疲れたら、きっとシュヴァリエでお守りしよう、私達の薔薇の姫をきっと幸福に育てよう、フェリス様が私達に幸せを運んで下さったように、私達はその姫を幸せにしたい、とシュヴァリエ全土が姫をお待ちしておりました」


「僕は嫌われ者の変人王弟だから、てすぐ謙遜なさるフェリス様を、帰ったら、叱ってさしあげないと。こんなにご領地で愛されてらっしゃるのに……フェリス様の為に私のことまで」


そんなに、シュヴァリエの人々が、レティシアを待っててくれるなんて夢にも思ってなかった。


お可哀想にフェリス様、そんな小さな娘を押し付けられて、って、レティシアを疎んじてもおかしくないのに。


「……それでも、フェリス様は常の方とかけ離れていらっしゃいますから、王家のことだけでなく、誰からも遠いような御心になられるのも致し方ないかと。いままで、私共はフェリス様の御心を知れるのは竜王陛下のみと思っていましたが」


にこっとカイはレティシアを見て笑った。


「フェリス様を叱ってくださるような姫君がいらしてくださったことは、望外の幸運です」


「ああああ、す、す、すみません……!」


いつもの調子で、フェリス様にめってしないと、とつい口に出しちゃった。し、失敗。


お外だった。フェリス様と二人の御部屋じゃなかった。


何でもフェリス様が笑って許して下さるから、ってダメダメ。公私を分けないと。


「とんでもない。私などにお詫びくださいますな。心からよき方がいらして下さったと思っております」


暗闇の道を進むときも、怖れることはない、愛しきディアナの子らよ。


己を信じよ。


我らが神はあなたとともに、そのけわしき道を歩み、あなたの未来の道をあかるく照らさん。


レティシアは生徒達の美しい讃美歌の声の波動に包まれながら、神でなく、己を信じよ、なあたりが竜王陛下らしいと思った。






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