第304話 サリアの災いを呼ぶ姫 2
(……馬鹿ね、どうしてレティシアを通したの、可哀想に。泣いちゃったじゃない)
(だって、可愛いし、オリヴィエも私達の薔薇の姫に逢いたいかなって……)
(フェリスが怒るわ。守護を、て言われたじゃない)
(ここに悪しきものをいれないように、の結界では、わたしたち、レティシアを阻めないわ。レティシアはフェリスの気を纏っていて、フェリスにとても愛されてるんですもの……)
さわさわと風越しに、誰かの揉めてる声が聞こえる。これはレティシアの知らない精霊さん達だろうか。
レティシアの知ってる精霊さんに逢いたい。精霊さんに逢って、わんわん、声をあげて泣きたい。
花嫁、交換されちゃうかも。レティシア、ここにいられないかもって。精霊さんともお別れかもって。
精霊さんのいう通りだ。
レティシアは強欲な小さい悪女になってしまった。
小さいうえに災いを呼ぶ姫君で、ちっとも綺麗で優しいフェリス様にふさわしくない癖に、ここにいたい、フェリス様といたい、フェリス宮の優しいみんなといたい、と想ってしまう。
毎日楽しくて、いつ夢が覚めても、おかしくなかったんだけど……。
「う、え……」
帰りたくない。
こんなに幸せなところから、凍てついた叔母様たちのところに帰るのは辛い。
どうしても帰らなきゃいけないなら、サリアの修道院じゃなくて、レーヴェ様の修道院にいれてもらえないかな。
そうしたら、フェリス様みたいなレーヴェ様の為に、せっせとお掃除とかして暮らすの……。
たとえ婚約破棄されても、フェリス様の御恩は忘れない。
この世界で、父様と母様以外に一番、レティシアに優しくしてくれた人だから。
足が滑った。転んじゃう。ハンナが頑張ったドレスと髪が。靴も脱げちゃう……。
どうしてこの身体はこんなに小さいの。走ってもちっとも前に進まない……。
みんなにあげたかった薔薇を落としてしまった。
でも誰もレティシアからの薔薇なんか貰わないほうがいいかも。
不幸を呼ぶ娘だから。
「レティシア。走っちゃダメ。あぶないから」
ああ、転んじゃう、土塗れ、と思ってたら、フェリスの腕が伸びてきてレティシアは抱き留められた。
逃れようとレティシアはもがいてみたものの、フェリスとレティシアではお話にならない。
「フェリス……様。御客様おいて……」
泣いちゃいそうだから、逃げなきゃ。
レティシアが泣いたら、フェリス様は困るじゃない、と思うんだけど、抱き上げられてしまった。
さっきまで近かった地面が遠くなる。
「レティシアが泣くような話を持って来たオリヴィエならもう追い返すから」
穏やかなフェリス様にもあらず無茶苦茶なことを仰ってる。
でも思ったより親しいかんじの方なのかな……?
「フェリス様。わたし、災いを呼ぶ娘ではありますが」
「違うよ。それは詐欺師の虚言だ。レティシアは幸運を呼ぶ姫だよ。僕の姫、我がシュヴァリエの薔薇の姫なんだから」
「幸運なんて、とても……。私が不吉なのは本当のことですが、わたし、フェリス様に災いは呼びたくないです」
私が守ってあげるって約束したの。この不器用な王子様を。
レティシアが近くにいたら、災い呼ぶなら、離れてもいいよ。
何処にいても、フェリス様の幸せを祈るよ、きっと。
「レティシアと逢ってから、毎日笑って暮らしてる僕が、災いの魔物に魅入られてるように見えるなら、そんな星見は廃業すればいい。致命的に才能がない。才能もないのに、人に託宣など授けたら迷惑だし、レーヴェもご立腹だよ、きっと。オレの娘に何言いやがるって」
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