第284話 王弟殿下の愛しい姫

「騒がしいし、醜い! 目障りだ! 消えよ!」


フェリス様が手を振ると叔母様たちが消えた。


「フェリス様」


ちっちゃいせいか、夢なせいか、フェリス様が怖い。フェリス様はいつもお優しいのに。


フェリスがいつもお優しいのはレティシア限定だけどな、とレーヴェが聞いたら笑いそうだ。


「フェリス様大好きです」


「僕もだよ。僕の姫君」


優しい綺麗なフェリス様。でも大好き過ぎて少し怖い。


あんまりレティシアが好きになりすぎたら、フェリス様も消えてなくなったりしないかな。


そんなことはない。


フェリス様には竜王陛下の加護がある。


大丈夫。


雪の呪いにも、レティシアの呪いにも、フェリス様は脅かされたりしない……。


「僕は化け物だから、レティシアは、僕の花嫁になるのは、怖い?」


「!? フェリス様は化け物じゃないです! そんなことを言う人はレティシアが成敗します!」


誰! こんなちいさい子にそんなこと言う不届き者は!

そんな奴は蹴っ飛ばしてやるわ!


自分のことは、二度も続くと確かに何かに呪われてるのでは、と、誰に責められなくても、自分でへこんでるけど、フェリス様はいっぺんの曇りもなくいい人よ! いい子よ!


「レティシアは」


フェリス様が微笑んだ。あ、微笑み方が大きいフェリス様と似てる。


「自分の為には怒らないけど、僕のためには怒る」


「そ、そんな……ことは……」


ある? かも?


なんかこう、不吉な姫!と言われても(言われ慣れたせいもあり)そうかも? と思うけど、大事な推しのフェリス様を貶されるのは、腹が立つの。


へ、変かな……変かも?


「優しいレティシアは美しいけど、自分の為にも怒るべきだ。理不尽に慣れてはいけない」


ちいさなフェリス様は、ちいさくても揺るぎない。


(僕が小さいか大きいかは問題ではない。おかしなことはおかしい。悪いことは悪い。この帳簿の不明確な点を説明できる者、あるいは責任を取るべき者を、僕の前に!)


小さなフェリス様は、私達にシュヴァリエを、私達の誇りを返して下さいました。


「……でも、フェリス様も……」


「うん?」


「私や、他の誰かが理不尽に扱われたら怒るのに、御自分の為には怒ってない気も……」


私のように叔父様たちに抵抗する術がなかったというよりは、もしかしてフェリス様は義母上様に甘いのかな?


「…………!!」


あれ……?


フェリス様の髪がのびていく。


レティシアのよく知ってる、背の高い、いつもの大人のフェリス様に戻っていく。


「僕のレティシアはいろいろ鈍いのに、どうして、ときどき鋭いんだろう……?」


「鈍くないです。……鋭くもないんですけど」


ああ。


やんちゃな子供のフェリス様とっても可愛いけど、やっぱりいつもの優しいフェリス様落ち着く。


いろんなことが出来るのに、肝心の自分のことは雑に扱ってしまう、私の嘘吐きで優しい王子様。


「フェリス様も」


「うん?」


「理不尽な扱いに慣れてはいけないと思います。自分の為にも怒らないと」


「そうか。……そうだね。レティシアは不思議だよね」


「どうして?」


「僕にそんなことを言うのは、レティシアだけだから」


膝の上に抱き上げられて、凄く愛し気に髪を撫でられたので、レティシアはこの人にこの言葉を言うために、この世界に生まれて来たような気がした。


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