第271話 愛は偉大

「レーヴェ。もう少ししたら、レティシアが来ますから、姿を消してくださいね」


「ずっと一緒だったのに、湯浴みの後まで部屋に呼んだのか? おまえ、レティシアは小さいんだから、早く休ませてやれよ」


「はい。僕も、今日は疲れさせたと思うので、早く休んで貰おうと思ったのですが、夕食後、部屋に送ったとき、少し寂しそうに見えたので……、眠る前に一緒に本を読む? と誘ってしまいました」


「夜に部屋に誘って、一緒にすることが、読書なのか!」


「そうですね。チェスかカードのほうが喜ばれるでしょうか?」


大真面目に尋ね返すフェリスに、同じ貌の竜の神は笑いを堪えるのに苦労している。


「……可愛いなあ、フェリス。レティシアとちょうどいいというか……。おまえにはずっとそのままでいて欲しい」


「……? なんですか、レーヴェ、暑苦しいですよ」


よしよしと、レーヴェはフェリスを抱き締めて、頭を撫でる。


「レーヴェ。馬鹿にしてるでしょう?」


「してない。愛でてる。うちのフェリス可愛い」


「ぜんぜん愛でられてる気がしません。……僕とて、僕の不器用は百も承知ですが……」


「うん?」


「不安そうな瞳をした子供を一人で寝かしたらいけないんだ、それは許されないことだ、と昔レーヴェが……」


「言ったか、オレ?」


「所詮、僕の人生の師匠はこんな人……こんな神様……」


「なんでレティシア、不安なんだ? サイファも来て御機嫌なんじゃないのか?」


「サリアの王妃に逢ったので……嫌な事を思い出したのかも知れません。レティシアは何も言わないのですが……、もし悪い夢など見るようなら僕が祓ってあげたいなと……」


「ふむ。フェリスの過保護も役に立つこともあるかな」


「過保護ではありません。ごく普通だと思います」


「それはなオレたち的には普通の感覚なんだけど、たいがいは過保護過ぎるって言われるから、おまえもこれからたぶん言われる」


「……そうなんですか? でも確かにレーヴェて変わってるからいまだに伝説なんですよね?」


「……オレは過保護伝説だけでなく、数々の功績もあるからそこを省略するな」


「僕は気の利かない男なのですが、レティシアの言えないことには気が付いてあげたいなと……」


「何と。人は愛で成長するんだなあ。氷と謳われたフェリスがなあ。言えないことに気づいてあげたいとは」


よしよし! とレーヴェはフェリスの髪を掻き混ぜる。やめてください、と子孫に嫌がられる。


「氷の渾名を頂いたのは、若年層に不埒な悪戯したがるふしだらな男女からでした。あれにはいまだに異論があります。僕にも選ぶ権利というものはあります。確かに、人より心は動きにくいですが」


「んなもん、モテない奴に好きに言わしときゃいい。オレなんか邪神だぞ。邪神」


「僕は氷の王子で、邪神の使いです」


「まあまあひどいな。でも大事な子に好かれてたらいいんだよ」


「そうなのですが、大事なレティシアの為に、これからは、名も惜しもうと思っています。僕があまりおかしな渾名をつけられてるとレティシアが可哀想なので」


「ほんと、愛って偉大だな」

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