第266話 レティシア、サイファのお引越しを竜王陛下に報告する
「竜王陛下。フェリス様が、サイファを探してくれました。フェリス様のおかげで、サイファをディアナに連れて帰ってこれました。今日からサイファも、竜王陛下のおうちの子になりました。どうかよろしくお願いします」
レティシアは自室で一人、レーヴェの肖像画に報告していた。
お部屋で竜王陛下にお祈りできるの、やっぱり、いいー!
本邸の素敵なタペストリーの竜王陛下も大好きだけど!
(よかったな。レティシア、本当は、ずっと逢いたかったんだよな、その子に。……我慢してたんだな)
「我慢、ではなくて……自信がなかったので、私よりも、誰か幸福な人の傍でサイファに幸せになって貰おうと思って……いえ、やっぱりやせ我慢ですね……」
なでなでしてくれる気配に、レティシアは金髪頭を傾ける。
フェリス様と似た、柔らかい、金色の気配。
この国に来てから、ずっと、この優しい金色の気配に守られている。
サイファを連れて行きたい、て言った時、いくら冷や飯ぐらいの王弟殿下とはいえ、ディアナでも王弟妃殿下の馬くらい用意してくれるわよ、て叔母様に鼻で笑われた。
そういうことではない、レティシアは立派な馬が欲しいのではなくて、サイファと一緒に行きたいのだ、と言ったけれど……。
(サイファのような我儘な馬を連れて行って、ディアナで何かあったらどうするの? 可愛いレティシア姫の我儘だと、ディアナの王弟殿下が許してくれるとでも?)
と切り捨てられた。
そう言われたら、どうしようもなかった。
ディアナの王弟殿下は、レティシアのような子供が嫌いかもしれない。
そもそもあまりフェリス王弟殿下が、女性どころか人間を好きだという噂が聞こえて来ない……。
レティシアと同じように、ディアナの意向に添ってレティシアとの婚姻を承諾したのだろうし、そんな方に我儘を言えるはずもない……。
レティシアはフェリス王弟殿下に好かれていないから、自分の身もどうなるかわからない。
ディアナでサイファを守れる力もない……。
(フェリスが悪評を放置しすぎたせいで、ここに来る前、物凄ーくレティシア怖かったんだな。可哀想に……あの馬鹿、もう少し、己の評判をあげないと、要らぬ心配を……)
「いいえ!」
ぶん!! とレティシアは金髪を振り上げた。
お、元気だな、ちびちゃん、とレーヴェはびっくりして、ちょっと上方にさがる。
「それは、少しも、フェリス様のせいではありません、竜王陛下! 悪評を撒く心無い者達と、私の心が弱かったせいです! 心が弱っていると、……悪い事ばかり、考えてしまうのです……いい風には、何も、なにひとつとして、考えられないのです……」
父様と母様においていかれたばかりの、つらい気持ちを思い出す。
毎日、砂を食べるように、パンを食べていた。
生きなければならない。
死んではいけない、生きて幸せになって欲しい、と、父母が言ったから。
両親の為に、生きのびねばならない、と。
このパンだとて、大切に作られたのだ。
手に入らず、ひもじい思いをしている人もいるのだ。
食べ物は、大事に食べなくては。
でも、何の味もしない……。
(そりゃあそうだよ、ちびちゃん。両親亡くして泣いてる五歳の子供が、いきなり嫁に行け、て言われたんだよ。どう考えても、そうそう前向きには考えられないだろうよ……。ちびちゃんは、滅茶苦茶、頑張ったぞ。もう、うちに来たんだから、うちの子として、うちで大事にするからな)
「いまなら、叔母様にも叔父様にも言えます。うちの優しいフェリス様は、何故、馬を連れて来てはいけないの? レティシアの馬なのに? て不思議がるって。もしや僕が嫌われ者だから貧乏で馬一頭も養えないとでも思われているのかい? てお笑いになるって……」
(そこは心配するな。フェリスは意外にも商売上手でやたらに蓄財してるから。シュヴァリエはフェリスの自由になるから、気軽に思いついたことをやってたら、やたら儲かっちゃったんだよな……。レティシアとサイファぐらい養うのに苦労しないから。……レティシア、よく似合ってるぞ、母上の首飾り)
「偶然にもお逢いしたので、叔母様がフェリス様がよい方だって、サリアにも広めて下さるといいですけど……うう。でも叔母様がフェリス様に悪い事しないか不安です……」
レティシアも手紙を書こう。
フェリス様はとてもいい方で、サリアに聞こえていたディアナの、王弟殿下の悪評はみんな嘘だって。
見たこともないほど、美しくて優しい方だって。
大切な母様の首飾りとサイファを、レティシアに取り戻して下さったって……。
フェリス様が優しい方だから、レティシアは幸せだって手紙を書いたら、ウォルフのじぃがどんなに安心して、喜ぶことだろう……。
(大丈夫だよ、レティシア。フェリスはレティシアに優しいだけで、とっても怖いから)
後半はレティシアには聞かせずに、竜王陛下は、新規の可愛いちいさな信者の髪を、よしよしと安心させるように撫でていた。
そりゃあな、こんな優しい性質の子に、本性ばれて怖がられたくないわな、オレのお姫様と違ってレティシアは戦姫じゃないからな、と苦笑しつつ。
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