第179話 愛しの姫君について

「……フェリス様、レティシア様は私が」


「いや? レティシアは僕が連れて行く」


「かしこまりました。では、姫君はフェリス様にお任せを。フェリス様に長年お仕えしておりますが、やはり婚姻ともなると、さまざまに新しい発見があるものですねぇ……」


「レイ、何が言いたいんだい?」


「いえいえ、我が主が大変に愛情深く、そしてなかなかに嫉妬深いことを、私、今月初めて学び、大変楽しく……ちょ、フェリス様、蹴とばさないで下さい!」


「……あいにく手が塞がってる」


「そんなことなさってると、レティシア様に怯えられますよ」


「………、それはいやだ」


「主よ、わかりやすすぎます……」


んんん?


いま、誰か、レティシアの名前、呼んだ?


ううん、起きなきゃ……。


でも、眠い~……。


王宮からね、馬車に乗ってね、フェリス様とたくさんお話してたんだけど、


けっこう距離があったから、だんだん眠くなってきて……。


レティシアが寝ちゃったら、フェリス様が退屈になるから……、と思って起きてようと思ったんだけど……。


サリアから馬車に乗って、長い旅をしてきたけど、ディアナに来るときは怖かったなー。


レティシアの想像の中の王弟殿下が、陰鬱な吸血鬼と意地悪な大人の男の人をたした感じの、どんどん怖い映像になっていったし……(失礼すぎる)。


フェリス様にお会いしたら、フェリス様の方が生贄にされそうな綺麗な人でびっくりしたなー。


想像の中の王弟殿下が怖くなりすぎたせいもあって、ちょっとだけ、旅の途中で逃亡も考えないこともなかったんだけど、レティシアが逃げたら、レティシアのお付きの人たちが罪に問われるだろうし、もう少し大きいならまだしも、この年齢で一人で働いて生活は完全に無理だろうな……て挫折したんだよね。


人生てわからない。


いまはフェリス様が隣にいてくれると、とっても安心する……。


「……んー?」


「レティシア起こしちゃった?」


「フェリス様?」


フェリス様のお貌、近い!!


うん? フェリス様の御膝の上で寝ちゃったのかな?


「……ここ、は?」


「うちの領地に着いたよ。今日はもう遅いから、明日、レティシアに周辺を案内するね」


違った!

馬車の中ではなかった。


なんだか雅な宮殿の前だった。何、これ、離宮!? ご領地で過ごすとは聞いてたけど、随分、優雅な……。


レティシアはフェリスの腕に抱かれて移動している。


ええー!?  なんでー!?


目的地に着いたなら、起こして欲しかったの!!

(寝ちゃってたレティシアが悪いのだけど……)


「フェリス様、降ろしてくださ……、わ、わたし、じぶんで歩きます」


「ん? このまま僕が運んであげるよ。レティシア軽いし……」


「い、いえ、重いし、子供っぽくて恥ずかしいので……」


「レティシア、子供じゃない?」


そりゃそうだ。じゅうぶん、子供だ。

でも、そんなこと言うなら、フェリス様だって、子供だもん!!


「う……。子供ですが、フェリス様の妃ですから!」


そんな優しくおでこにキスされたって誤魔化されないもん!!

ちゃんと自分の足で歩きたいもん!!


二人だけのお部屋で、フェリス様がパワー不足のときはフェリス様のパワー補充に抱っこされてていいけど、レティシアだって、人前ではちゃんとしてたいのー!!


「僕もあまり詳しくはないが、夫と言うのは、花嫁を抱いて運ぶものではないか?」


「う……? でも、それはなんだか違うような……」


それは初夜とか、もっと最高潮な場面の話なのでは?

わかんないけど。


「ちゃんと、自分の足で歩きたいです」


「……わかった。レイ、レティシアの靴を」


なんでちょっと残念そうなんだろう!?

でも納得してくれたらしく、降ろしてくれるみたい。


寝ている間に、靴を脱がしてくれてたらしく、レイが靴を持ってきてくれた。

貴婦人の靴は本当に華奢。たくさん歩くのには向いてないけど、見た目はとても可愛らしい。


「レティシア様。フェリス様はとても、本日のレティシア様のお働きに感謝なさっていて、レティシア様の為に、何でもしてさしあげたくて仕方ないのですよ」


「……私、フェリス様に感謝されるようなこと、何もしてないですが……?」


感謝することはいっぱいある気がするけど、されるようなことはした記憶が……?

せいぜい、夜に夜食持って押しかけて、安眠の邪魔を……。


「レティシア、今日はずっと、僕の用事に付き合ってくれたよ? 大変だったでしょ?」


「………? いいえ? フェリス様こそ。お疲れだったでしょう?」


少々、肩は凝ったけど、それはぜんぜん大変じゃないよ。


役に立てたかは謎だけど、ちょっとくらい、レティシアが、場の空気を和ませるお役に立ててたらいいなー。


フェリス様は、僕がきっとレティシアを守るから、て最初に逢った日に言ってくれた恩人だもの。


あのとき、密かに心で誓ったように、 レティシアも全力でフェリス様をお守りするよー!




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