第170話 王弟殿下とレティシア、王太后をお見舞いする

「王弟殿下、レティシア殿下、こちらでございます」


 だいぶ待たされて、これはもう今日は無理だろうね、と二人で話してた頃、王太后様のもとへお伺いすることになった。


 待たされ過ぎて、薔薇のマカロン食べ過ぎた…。


 つい、惰弱な私とフェリス様、王太后様、逢えないなら逢えないでホッとしちゃうところだったけど、そうは言っても、嫌でも、お逢い出来てたほうがいいよね……。


「義母上、御気分が優れぬとのことですが……医師はなんと申しておりますか?」

「王太后様、お加減はいかがでしょうか?」


ちょっと仮病も疑っちゃったけど、顔色はお悪いかも。


「大事ない。少し疲れた様じゃ。王弟殿下にもレティシア殿下にも、見舞い、感謝する」


お見舞いのご挨拶はよいのだけど、このあと、どう進めたらいいんだろう?


普通なら、王太后様が軽くでも詫びるところだと思うんだけど、そんな気配はかけらも……。


「王弟殿下、お見舞いありがとうございます。王太后様は、昨日から高い御熱があったのです。そのため、メイナード伯とのお話が行き違ってしまったようで……、王弟殿下には大変なご迷惑を……」


なるほど!!

だいぶ無理感じるけど、その設定でいくのですね!!


王太后様より、口上述べてる王太后付きの御年輩の白髪の侍女殿が気の毒過ぎる……。


「義母上、そのようにお加減が悪いのに、我が身の為に時間を作って下さってありがとうございます。昨日、私も、初めて、竜王剣に関する悪質な流言のことを知り、大変に驚きました。無論、私は、その悪しき流言に、いっさい関与しておりません。私の陛下への心は、陛下が即位されて以来、ずっと変わりません。数ならぬ身ですが、少しでも、ディアナと、陛下の御役にたちたいと思っています。……その気持ちを、誰からも疑われたりせぬように、これからも励みたいと思っております」


フェリス様は穏やかに陛下へお気持ちを語り、王太后様を一言も責めなかった。

王太后様はわからないけれど、あきらかに、その口上を聞いて、王太后宮の女官方がほっとしている気配だ。


「陛下はの、フェリス、熱に浮かされて、この母がおかしなことを言うたと、大変にお怒りじゃった」


まるで武装のように、きつい化粧の施された王太后様の貌が歪む。


「……マリウスはいつもそなたに甘い」


「王太后様」

「マグダレーナ様」


フェリス様はただ王太后様の言葉に顔を少し上げただけだったけど、王太后付きの女官達が、このまま丸く収めましょう、と言いたげに、王太后様に御声をかける。


「昨日も、他の者ならともかく、フェリスは自分を裏切ったりしない、と大変な怒りようじゃった。あのマリウスが妾に意見しようとはな」


陛下、ありがとうございます! 

心より、お慕い申し上げます!


「だが、そんなに妾のいうことはおかしいかの? フェリス、たとえ、そなたが二心なく兄に仕えていても、優秀なそなたを盛りたてたい貴族はおろう? 民はきっと、マリウス陛下に抜けなくても、レーヴェ様にそっくりな王弟殿下なら竜王剣を扱えよう、と言うであろう?」


「マグダレーナ様、そろそろ薬師がおいでに……!!」


「いいえ、義母上。ディアナに王位簒奪を画策する不忠な貴族など、一人もおりません。竜王陛下の絵姿に似ているからといって、神剣が扱えるなどと勘違いする、愉快な愚か者もおりません。……もし、私の振る舞いに、何か少しでも、義母上を不安にさせるところがあったなら、幾重にもお詫びいたします。……竜王剣の話など夢にも知らず、……私は、いま、ちいさな花嫁との婚姻の支度に夢中で……」


……そうでしたか? それは初耳です。とフェリス様の貌を見上げたら、なんとも、婚約者のレティシアが愛しくてたまらない、と言いたげなお貌で見返された。


「新しい家族が増えることに浮かれてしまっていて、義母上への親不孝があったかも知れません。レティシアとこうして逢えましたのも、すべて義母上のおかげ。本当に感謝致しております」


物凄く強引に、フェリス様は婚姻話に話をそらすつもりらしい。

それならば……


「私も。フェリス様とお逢い出来て、王太后様に、とても、とても、感謝しております」


うんと可愛らしい、高い、子供らしい声で、フェリス様に声を重ねた。


勘違いでフェリス様謹慎にするなんて、王太后様なんか滅べばいいのに! と思ってたのは内緒!


そして、王太后様のおかげで、フェリス様にお会いできたのは本当だものね。


「これから暫く、婚儀の準備をかねて、レティシアとともに王宮を離れますが、義母上、どうかお許しください。……陛下も、いくら言うても、フェリスが姫との婚儀の為の休みをとらぬから、義母上はフェリスを休ませたかったのかも知れぬな、と笑っておいででした」


おお。なんだか無理やりだけど、まとまりそう。


「王太后さま。先日は大変、失礼いたしました。私、フェリス様が好きすぎて、ほかのお妃様が増えるのがいやで、大変な御無礼を……。どうか、また、御茶会にお呼びください」


可愛らしく、お辞儀する。

ホントはあんまり行きたくないけど、そういう訳にもいかない。

こんど、ルーファス様におばあさま懐柔法でも聞きたい……。


「レティシア姫は、フェリスの心を、永遠に一人で所有する自信がおありなのか?」


ふと、初めて存在に気づいたとでもいいたげに、王太后様がレティシアを見た。

ふん、と鼻で笑われてしまった……。


永遠に?

ひとりで?


いや、いまも、フェリス様の心を所有してるなんて、レティシアはかけらも思ってはいないけれど……。


「私、まだ、フェリス様のこと知らないことだらけで……、もう少し、フェリス様と二人だけで、いろんなお話がしたいなって……」


あえて、レティシアが少したどたどしいぐらいに告げると、王太后宮の女官たちがやんわり微笑みながら、王太后に、あまり長時間のお話はお身体に触ります、と、切り上げることを促していた。


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