「フェリス様。竜王剣の噂については私のほうでも調査致します」

フェリス宮への帰り道、馬車の中で、レイが言う。

護送するのか？　と尋ねたら、とんでもありません、普通にお帰り下さい、とラザンに恐縮された。

気の毒な役回りだったが、ラザンでよかった。あまり高圧的な者が来たら、フェリスも大人げなく、知らずに魔力で何か破壊してしまったかも知れない。

「うん。それは調べてくれたらいいけれど、王弟派……

王弟派も何も、引き籠りの私に、派閥も何もあったものではないのだけれど…」

思わず、他人事のように王弟派と言ってしまった。

そんなものは存在させてないのだが、義母上の妄想の中にはずっと存在しているらしい。

「それはうちのフェリス様が無欲なので派閥として成立しないだけの話で、お声がけなら常にありますよ」

「無欲ではないが、余計な面倒の種は育てたくない。メイナードからの書状に寄れば、市井の噂で私の名が出ていた訳ではなく、義母上が、フェリスなら竜王剣を扱えると民が言いだすに違いない! と激怒したそうだ」

「………。それはまあ……とてもありそうな話ではありますが、王太后様の妄想で謹慎になる我が主の身になって頂きたいです……」

「全くだ。結婚目前に、蟄居謹慎になる男なんて最悪だ。異国から嫁いだ花嫁として、心細い思いをしているレティシアに申し訳ない」

「フェリス様……。よろしゅうございますよ。普段、我が主は働きすぎなんですから、王宮の方々に有難みを思い知らせてやればいいんです。レティシア様とゆっくり過ごされませ」

「……こんなに大袈裟に、私を謹慎させれば、事の真偽に関わらず、兄上にとって不快な噂が、余計に広がってしまう……。何故、義母上はそれを思わぬのだろう？」

悪手だ、とフェリスは思うが、義母上は思わないのかも知れない(あるいはフェリス嫌いが高じて、まともな判断力を失っているのかも知れぬ)。

そもそもが、竜王剣の噂を、義母上に奏上する時点で悪手だ。

必ず、激昂するに決まっている義母にも、もちろん当事者の兄上にも知らせず、噂の火種をうまく消すか、噂の内容を少しいい方に脚色すればよかったのに。

噂というのも馬鹿にならぬから、義母上が苛立つ気持ちもわからんではないが……。

つい対応策を考えかけて、馬鹿だな僕は、兄上でも義母上でもなく、我が身の心配をせねばだ、大切なレティシアの為にも、と軽く首を振った。

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