第130話 竜王陛下とディアナの民について

「わかりやすい愛のかたち」


「そう。金自体は、そんなもん使う訳でもない、神には何の意味もないんだけど、……何だろう? オレみたいに、やろうと思えば、それなりに人間らしい思考も追える神もいれば、なんとなくの大枠しかわからないタイプもいるから。……そのタイプだと、細かいことはわからないんだけど、紙幣なり金貨なりに、人の念がそりゃあもう膨大に集まってるのだけはわかるから、お金供えて貰うと嬉しいのかもな? オレには謎だが。オレは、自分で作ってくれた食べ物供えて貰う方が好きだぞ。水と豊穣を司ってる神だからな」


「レーヴェには、焼きたてのパンと、朝どれいちごを供えてあげますから、大人しくしててください。僕の結婚生活を監視してないで」


「いちごは貰うけど、そこは、レティシアに大改革されてるフェリスがおもしろくて、つい見ちゃうだろ。やっぱ長生きはするもんだな~じいちゃんはフェリスの幸せそうな貌が毎日見れてまことに嬉しいぞ!」


「同じ貌でじいちゃんぶるのやめて下さい」


「だってホントにひぃひぃひぃ……?じいちゃんなのに。てか、オレも、何処かで今日みたいな怪しいの見かけたら、雨でも降らして心挫いとくけど、うっとおしいな」


「そうですね。なかには本当にレーヴェが悪の化身と信じてディアナの民を救いたいと思ってらっしゃる人もいて面倒このうえないというか……、ただこう、裕福なディアナ商人だの貴族だのを狙って勧誘してる者は、それほど清らかな御心だけとは思い難いですけど」


「市井の市民の心をじわじわ惑わそうってのも、じゅうぶん罪深いと思うぞ。演説の語り手自身に才があれば、ああいうので民を大暴動までもっていく怖い奴もいるからな。とはいえ、うちのディアナの下町っこの心はあんなもんじゃ揺らがないと思うがな」


「みな、竜王陛下、大好きだからですか?」


まあレーヴェが自惚れて当然な程度には、ディアナっ子は竜王陛下命なのだが。


「それもあるけど、昔から、ディアナ人、なんか神様に、異様に寛容なんだよ。だからオレにも寛容だったんだと思うけど。みんな義理堅いから、オレのこと貶されるのは嫌うけど、ああ、広い世の中には、リリアの神が好きな人もいるんだね、くらいなもんじゃないか?」


「ああ……、そこは、そうですね。ディアナの民はおかしい! まるで海岸の砂にでも教えを説いているような手ごたえのなさだ!  邪神の呪いは深い!  て捕らえたリリア僧が逆に怒ってました」


フェリスも少し笑った。


「そうなんだよ。ディアナの子、優しいんだけど、わりと人の話聞き流しちゃうから。うちの子たち、あの、いい加減なとこが、オレとあってるんだと思うんだよな。それは、オレの呪いじゃなくて、この国の風土であり性質だから」


「レーヴェ、褒めてるんですか貶してるんですか」


「褒めてる。オレと気が合うから、ずっと愛して守ってきてる。思い詰めすぎはよくない。人の子も、神様も、いい加減なくらいでちょうどいい。……何でも思い詰めすぎて、何かひとつに依存しすぎると、よく、悪いものに付け込まれる」


千年もディアナを守ってる優しい神竜様は、妃にはやたらと一途だが、信心なら、いい加減なくらいがちょうどいいらしい。

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