第90話 幼いあなたの面影は、異国の少女の中にも見える

「ほお、何とも……、姫の幼さに似合わぬ、立派なお言葉よの」


どうしてだろう。

褒められたのに、貶されてるようなこの気配。


あ、こういうのを、日本語で「扇越しの嘲笑」というのかな。

なかなか庶民の生活では使わない言葉ではある。


不思議。レティシアは、マグダレーナ王太后と初めてお逢いするんだけど、なんだか好かれてないみたい。なんでかな……?


マグダレーナ王太后は、すべてを見下ろすように、ゆったりと腰かけていらっしゃる。


この婚姻はフェリス様の力を弱める為では、ともこちらに来てからお聞きしたから、……何だろう? 王太后にとって、レティシアがどんな娘だったら合格だったんだろう?


レティシアが、おかげで幸福です、と言った途端に、王太后から露骨に眉を顰められたので、もしかして、もっと不幸そうな方がよかったんだろうか?


「幼いのにひどく賢い姫、昔の貴方と似てるかも知れぬの、フェリス」


王太后様、それは違います。

フェリス様は本物の早熟な天才で、レティシアはただのinやまとのむすめ雪です。


しかもそこまで賢くもありません。

賢かったら、前世も現世も、もう少しいろいろ仕事も人生もうまくやれてると思います。


「ええ。僕とレティシア姫は、何処か似ていると思います」


いえ。それは誤解です、フェリス様……。


でも、フェリス様が、僕達は似てる、とせっかく気に入って下さってるので、

そこはあえて突っ込みません。


……きっと、孤独だったんだろうなあ、かつての天才少年。


「それ故、レティシアといると、僕はとても……穏やかな気持ちでいられて、……そう幸せです」


フェリス様が自分で言いながら、自分で驚いている。

フェリス様も驚いてるけど、周囲もざわめきまくりで、そうとう驚いている。


どういうことなの、ここの人達!

みんな、私たちが、とっても不幸です! とでも言ったら満足なのー!?


実際にフェリス様と私、日々ほのぼのと幸福なんだけど、これでも私たち結婚式直前なんだから、きっと不幸でもそこは不幸だとは言えないでしょー!


「お互いの年齢が離れているので、この婚姻に、少々、不安を抱いておりましたが、いまは義母上に感謝致しております」


キリリ、と、お義母上様の眉があがる。


あきらかに、御礼を言われたのが嬉しくはなく、美しい義理の息子が、

この奇妙な組み合わせの婚姻に不満ではなく、むしろ何処か幸福そうなのが、

ずいぶんと御不快の御様子……。


ううう?

もっとちゃんとフェリス様と打ち合わせしとくべきだった!?


私達、気があわなくて、とても不幸です!!  のほうが、王太后様を喜ばせるんだったら、それでいくべきだったのかも……。


でも「王太后様のおかげを持ちましてのこのたびの婚姻……、我ら二人、大変に感謝致しております」はここでは外せないご挨拶よね!? どうしたらよかったの!?

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