第86話 麗しき戦いと、花嫁のお願い
「あまりにも急なお話で、レティシア様が心配でございます」
「失礼ながら、王太后様におかれましては、不意打ちで、私共の姫君の振る舞いを見分されようとの御心でしょうか……」
「だいじょうぶ」
朝食のあと、午後から王太后様の御茶会とあっては……!!と俄かに女官達は殺気立っている。
「髪も肌も、サキやリタがとても綺麗に磨いてくれてるから、何も問題ないよ」
鏡台の前で、ふたたび金髪を梳かして貰いながら、レティシアは皆を励ます。
もちろんレティシアも不安なのだが、今日の今日て言われたら、レティシアの支度してくれる女官達も蒼ざめるよね……。責任重大すぎる……。
「レティシア様。お優しいお言葉ありがとうございます。私共、精魂込めて、御仕度致しますね……!!」
「う、うん。よろしくね」
き、鬼気迫っている。
とはいえ、生まれた時からディアナで育った皆の意見をよく聞かないと。
何処の世界だろうと、国によって、ドレスの礼儀も好みも流行りも違うだろうから、
レティシアが選んで、自分では頑張ったつもりで、大きく外してはいけない。
「レティシア様の雪白のお肌が映えるように、可愛らしく薄紅色のドレスがよろしいでしょうか?」
「そうね。こちらもとても可愛らしいと思うのだけど、どうかしら、この…深いコバルトのドレスは…」
「こちらはこちらで、レティシア姫の聡明さを際立たせますね」
「深紅のドレスは美しいですが、王太后様に生意気と思われてはいけませんから、
こちらは本日の衣装ではございませんね」
アフタヌーンドレスは、昼のドレス。
夜のイブニングドレスとは違って、品のよさを大切に、肌をぴったり覆った露出のないものを選ぶ。
「アクセサリーの宝石は? どちらになさいますか?」
衣装室からレティシアのドレスや宝石がどんどん持ち出されてきて、戦略会議が行われている。
ああ……くまちゃん……抱っこしたい……。
お外、いい天気だなあ。
フェリス様と薔薇のお庭散歩したいなあ……くすん……。
ふんわり開いた唇から魂出ていきそう……。
ダメダメダメ!
みんなレティシアの為に、真剣にお茶会用のドレス選んでくれてるんだから、
本人が敵前逃亡ダメ絶対!!
「レティシア」
「フェリス様!」
ああ。
フェリス様、美しさが輝いてて、眼が癒される。
「目が泳いでない? レティシア」
戦場になってる御仕度部屋から、フェリス様と隣の部屋に移る。
「そんなことはありません」
ぶるぶるぶるぶる、レティシアは首を振る。
ドレスの山に気が遠くなってきて、魂が口から出そうになってたのは内緒!
「大丈夫。レティシアは優しいいい娘だから、義母上もきっと気に入るよ。
たとえ意地悪されても、それは僕のせいで、レティシアのせいではないから」
「そんなことは……、フェリス様」
王太后様がレティシアを気に入るかどうかは甚だ謎だけど、フェリス様の為にうまくやれるといいんだけど。
27年+5年生きたけど、前世でも嫁に行ったことがないどころか、彼氏のお宅訪問経験すらない残業命の社畜娘なので、甚だ心もとない。
でも、それより、気になってるのが……。
「フェリス様、王太后様には、今日、急にお会いできることになりましたが、
あの…フェリス様の亡くなられた実のお母さまのところへ…、できればよき日にご挨拶を」
フェリス様の母上は、公式には王太后様になられてるだろうから、公式予定に入ってない気がするので…、これをフェリス様に個人的にお願いしなくては、と。
「…………」
あ。
フェリス様がフリーズしてしまった。
嫌、かな?
そんなに親しい訳じゃない、来たばかりの妃だから……。
で、でも……、わ、わたしたち、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、仲良しになったので!!
フェリス様の妃と言うか、ちいさな友として(中身だいぶ老けてるけど)、
私、お母様にそっとご挨拶をば……。こんな怪しい嫁で申し訳ないですけど、
きっと大事にお守りしますからね……て。
「うん……。ありがとう。誰も思い出さない、僕の母のことを、気にかけてくれて」
「そ、そんなことはないです! 皆さんきっと心で思ってらっしゃるんです!」
逢ったことはないんだけど。逢えないんだけど。
フェリス様のお母様、きっと綺麗な優しい人だったんだろうなー、と思うの。
フェリス様が、家なき子の残念王女のレティシアにも、こんなに優しい方だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます