第85話 御茶会のお誘いについて

「飛翔する美しい竜の姿を、昔の人々は当たり前に見られたらしいが、人の世界からドラゴンが距離をおいて久しい。いい夢を見たね、レティシア」

「はいっ」


やっぱり嬉しい。

フェリス様も、気味の悪い夢とか言わない。


幸せ……!

居心地よくて、ごはんも美味しい……!

レティシアは、このおうちに、お嫁に来てよかった……!

(めちゃくちゃ現金である)


「フェリス様。夢占い師を呼んで、占わせてはどうでしょう?」

「どうかな? ちゃんとした能力のある者が見つかるのかな?」

「占いの内容よりも、シュヴァリエ家の婚姻の吉兆の夢として、佳き宣伝となりましょう」


意外と現実的なことを言ってるサキ。


「竜の歓迎があると、レティシア様がディアナの民に受け入れられやすくなります」

「それはそうだね。みんなレーヴェの御心に弱いから」

「わ、わたしの他愛ない夢ですので、それは大袈裟です」


「そんなことないよ。竜王陛下がレティシアを気に入ってるのは本当のことだからね」


やけに確信を持って保障して下さるフェリス様。


何故ですか。

御顔が同じだと、心も通じるんでしょうか(いや、そんなはずは……)。


「……フェリス様。御歓談中のところ、申し訳ありません」

「何だい?」


あまり浮かない顔のレイが入ってきて、膝をついて、フェリス様に耳打ちする。


「………気軽においで頂きたいと……」

「今日のことを今日というのは、王族のやることではないと思うんだが……」


さっきまで明るかったフェリス様の表情が曇る。


「レティシア」

「はい」

「うちの義母上が、レティシアに、本日午後ごく私的な御茶会においでにならないか、と言ってるそうなんだが……」

「御茶会ですか? 今日?」


それは、なかなか……。

王太后様の正式な御招きの御茶会とあれば、何日も前からの招待となるだろう。

今日の今日では、レティシアも、何の支度も……。


「断ってかまわないよ。いつもの義母の気紛れだ。もう少し後に、ちゃんとした日程の食事会も予定されてるし…」


「王太后様は、国王陛下から、フェリス様がレティシア様を大変気に入られたと聞いて、ぜひ会ってみたいと仰せとのこと……」

「もちろんお受けします。王太后様に、お誘い嬉しいです、とお返事してください」


微妙な顔のレイにお返事をしたら、安心した顔をしてた。


それは、行くでしょ。


初のお姑様のお呼び。

私どころか、フェリス様本人の時点で不仲のお姑様だけど。

それでもフェリス様のお義母様。ディアナの国母様。


日本みたいに、おうちが狭かったら、ここへ来た日に、難しそうなお姑様にもご挨拶だと思うんだけど、邸宅がわかれてらっしゃるので、お約束してないと、すれ違うこともないという……。


噂の王太后様、どんな方なのかなあ……?


「フェリス様」

「だいじょうぶ? レティシア」

「お義母様が何かお嫌いな仕草などあれば、教えて下さい」


真面目な顔で尋ねてみる。礼儀にうるさい方と聞いたはず。


「大丈夫だよ。レティシアは可愛く微笑ってたら、文句など言われない。何といっても、レティシアとの婚姻を一番奨めたのは義母上なんだから」


奨めた理由が善意でないとしても、確かに、これは王太后様の肝入りの婚姻なのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る