第77話 王弟殿下の大事な姫君

「レティシア様。蒼白でいらした頬が薔薇色になりましたよ。フェリス様に来て頂いてよかったですね」


「はい。とても楽になりました。でもフェリス様に御心配かけてしまいました…」


フェリスが部屋から退出したのち、レティシアはサキに身の回りの世話をして貰いながら、ちょっとしょんぼりしている。


顔色はサキの言う通り、意識を失っていた時の紙のような白さから、フェリスの魔力を補充して貰い、薔薇色に戻った。


マーロウ先生の言葉に従って練習していたら、空間から水を呼び出すことは出来たのだ。


初めての不思議な経験にとても嬉しくなって、調子に乗って今度は火を呼び出そうとしてたら、立て続けに集中力を使いすぎたのがいけなかったのか、意識がなくなってしまった。


意識を失う寸前、身体から熱量がふっとなくなるような感じだった。

さっき、フェリスには言いそびれたが、気を失う寸前に、

(あらら……、ちびちゃんは、まだちょっと存在が不安定なんだから、あんまり急いじゃダメだよ)

と、例の精霊さんの声を聴いた気がする……。


「心配されるのは当然ですわ。大事な婚約者ですもの」

「う、……」


あんなこの世の誰にも興味ないみたいなクールな外見だけど、フェリス様は実は物凄く面倒見がいいのかもしれない。


本当に心配して焦ってる声だった。


(僕の心臓が痛むから、無茶はしないで)


誰かにあんなに心配されたの、いつぶり?


いや、前世でも恋人もいなかったレティシアは、両親以外の他人に、あんなに心配してもらったの、前世現生の人生二回通しても、もしや初めてなのでは……?


「レティシア様。魔法のお勉強楽しそうでしたが、魔法は危険なこともたくさんありますので、くれぐれも無茶をしないでくださいね。私などは、あまり魔法に熱心になられることを、お勧めしたくないほどです。魔法の鍛錬中に一生治らぬ傷を負ったり、手や足や御命を失う人もいるのですよ」


サキが真面目な顔で言ってくれる。


「はい…。あの…サキさん、フェリス様が子供の頃、魔法使ってて、塔が壊れたって本当に?」


ナチュラルに、サキさん、あの塔は老朽化してたからちょうどよかったとか言ってたけども……。


塔て、タワーであり、日本でいう高層建築だから、壊れるとだいぶえらいことじゃない?


「私のことは、どうぞ、サキとお呼びください。……はい。本当に。フェリス様はいまは穏やかな方ですが、子供の頃は無茶な方でした。無茶というか、御自分の力を持て余すというか」


「意外、です」


子供の頃から、ずっと、いまみたいに穏やかなフェリス様なのかと思ってた。


「だからレティシア様に、無茶はダメなんてフェリス様が仰ってるのを伺ってると、ああ、大人になられたなあ、と感慨が……でもちょっとおかしくて」


「フェリス様が、お兄ちゃんになったなーて?」


サキさん的には少年の頃から世話してた坊ちゃんが、突然、年下の妹ができたようにお兄ちゃんぶってて可愛いのかな?


「それもありますが、人間とは我儘なものだなあ、と。御自分では無茶しても、大事な姫君には無茶してほしくないんだなと」


「だいじなひめぎみ」


思わず、平仮名で繰り返してしまう。それは偉く昇格しすぎでは。昨日会ったばかりの姫君から。


「そうですよ。フェリス様があんな顔なさるの初めて見ました。レティシア様が心配で仕方ないんですわ。最近のフェリス様、人間不信極めてらした感があったので、本当にレティシア様がこちらにいらして下さって、ありがたいです。まさか、王太后様お奨めの姫様が、こんなに可愛らしい方とは……」


そこは、こんなに可愛らしいより、こんなにおもしろい、が正解な気がする!!

フェリス様、やたら、レティシアのいう事なす事に笑ってる気がするよー!!

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