第76話 王弟殿下の守護の精霊について

「謝らないで、レティシア。迷惑をかけてるのは、僕の方だから。ややこしい家に、お嫁に来させてごめんね」


「そんなことないです!  王家なんて、何処もみんな、ややこしいです!」


力いっぱい、レティシアが保証してくれて、フェリスはまた笑ってしまいそうになる。


うん。

この子、好きだ。

めげない、おもしろい、可愛い。


フェリスの人生で、義母上から頂いたギフトのなかで、唯一嬉しいギフトかも。


「……ディアナのよい精霊さんも祝福してくれてるって、マーロウ先生も言ってました」


「精霊?」


そんな可愛い、優しい響きのもの、我が家にいたか?


「マーロウ先生が、私に魔力があるって仰って」


「うん。それは僕もあると思うよ」


「……でも、私、ぜんぜん、何も魔力的なこと感じないんですけど、フェリス様のところに来てから、ときどき、声が聞こえて」


「………、どんな声?」


それはあれだ。ディアナのいい精霊なんて可愛いらしいものじゃなくて、女たらしというか人たらし? 生きてるものも死んでるものも、何でも隙あらば誑しこみそうな、うちのたちの悪い竜王陛下だ。


「いい声です。優しい声。優しい気配。いつも、竜王陛下の絵のところとか……、

フェリス様のこと考えてるときに聞こえてくるから、きっとフェリス様の守護霊様なのかなーて。……御心あたりあります? フェリス様?」


「………、いや……」


きらきら輝く瞳で聞かれてしまった。


「ないな。きっと、ディアナの花嫁のレティシアのことを歓迎してくれてる、優しい先祖の御婦人の霊かもね」


優しい先祖までは、嘘ではない。嘘では。


「男の人の声なんです。……あ、でも、低い声の御婦人かも知れませんね」


「そうなのか。魔力の低い僕にはわからないな」


「………、」

「………、」


レティシアのみならず、なんだか女官たちからも、やや疑わしい視線を頂いたが、まさかそれはレティシアの好きなディアナの竜王陛下、レーヴェだよ、とも言えない。


レーヴェ的には喜んで、レティシアに自己紹介したがりそうだけど……。


「フェリス様が、御存じないうちに大切に見守って下さってるのかも知れませんね。いつもフェリス様を案じるような声なんですよ」


子供だからなのか、元来、そういう性質なのか。

レティシアは、善意で出来ている。


ぜったいレーヴェ、何か余計なこと言ってるんだろうに、聞き手の性質が優しいと、優しい精霊さんに聞こえるんだな……、それこそ魔法だな……。

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