第72話 君の眠りを守る者になるよ
「……ん……、」
遠方から来た心細いであろう姫君の気持ちが安らぐ内装に、と整えさせたレティシアの部屋だが、果たしてこれで正解なのかは、フェリスにはわからない。
記憶にあるフェリスの子供時代の部屋は、うず高く積まれた本と、謎の科学と魔法の道具だらけで、これまた参考にならぬと思う。
「……ん、…い、や……」
フェリスが食事にあまり興味がないと言ったら、ごはんはちゃんと食べてくれ、とレティシアに泣かれてしまった。
フェリスの食事事情どうこうより、いろんな悲しいことを思い出させてしまったんだと思うのだが。
あの頃のフェリスにそっくりの、親を亡くした、居場所のない小さな子供。
「……ん……」
フェリスが、レティシアの額を撫でると、安心したような顔色になった。
「夢魔よ、疾く去れ。我が花嫁を、我に還せ」
レティシアに何をどうしてあげたらいいのか、的な難題に比べると、フェリスにとって魔法は大変扱いやすい。昔から、気心の知れた友人のように。
人の心の複雑さに比べたら、フェリスにとっては、魔法の呪文のほうがよほど読み解きやすい。
「……フェリス、さま……? ……わた、し……?」
レティシアが瞳を開くと、安心した。
レティシアが受けた魔法授業は初歩も初歩で、高度で危険な呪文とは縁がないと知ってはいるが、それでも稀に、魔術習得中に、身体や心の一部、あるいはすべてを失う者がいる。
魔法にむいてない者より、魔法にむいている者のほうが、事故は起こりやすい。
「魔法の授業で気を失ったそうだ。レティシアは慣れていないから、身体がびっくりしたんだろう」
「まあ…。マーロウ先生や、皆様に、ご心配を…かけてしまいました」
驚いて、レティシアは身体を起こそうとしている。
「寝てていいよ」
とはいえ、寝たまま、フェリスと話すのも落ち着かないらしい。
それはフェリスがレティシアの立場だとしても、そうだと思う……。
「いえ。何処も痛くないんです」
「何の実践をやってたの?」
「火球と水球を作ろうとしてて…」
「ああ。物質の構成に触れるのか…」
フェリスは、空間に、マーロウ師の手紙を浮かべてみる。
レティシア姫は魔法の素質があること、レティシア姫も興味があるようなので、魔法の授業は増やしてはどうか、との進言。そして、魔法省の者は、常にフェリス殿下の訪れを楽しみにお待ちしている、との結び。
「マーロウ師が、レティシアには素質があるって書いてる」
「マーロウ先生お優しい……初日から倒れてては、魔法使いの初級弟子、落第です」
赤くなって困っているレティシアが可愛い。
レティシアに魔法の素質があるのは、マーロウのお世辞ではなくて、ホントなんだけどな。
レティシア本人が気づいてないだけで。
レーヴェの御墨付きだし。
「そんなことはないよ。魔法の授業、レティシアが楽しいなようなら、増やすけど、
歴史や行儀作法の授業よりは危険もあることだから、無理はしないって約束して欲しいな」
あぶないことしないでください、いくら魔法学が得意だからって、無茶はダメです、フェリス様!!
とレイやサキからずっと叱られる役だったので、こんなことをレティシアに言ってると、ちょっと大人になったような気分だ。
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