第60話 手に入らない月のように
「フェリス様はあまり大声で笑う方ではないのですか?」
昨日、そういえば、フェリス様に大笑いされちゃった……。
摘んできた薔薇を喜んでくれたし、なんだかフェリス様がとっても楽しそうだからいっか、と想っちゃったけど。
(いいのか?)
「そうですねぇ。普段、あまりそういう方ではないですね。氷の美貌と称されてはおりますが、フェリス様は、私共、家の者には大変お優しい方ですので、その渾名はどうなんでしょう? とは思ってるのですが」
「ですよね! お優しいですよね、フェリス様!」
わーい、同志!! そうだ。フェリス様に影のように寄り添う随身のレイとか、フェリス様の恩師のランス先とかを、勝手に心で推し仲間と認定してたけど、やはり、推しのお話は、女子と熱く語らなくては、では!? 推しの素晴らしさを語りながら、女子会でアフタヌーンティなど頂く、そういう前世で憧れたリア充(???)的なことをぜひしたい!
「はい。変わり者だとか、冷たいとか、いろいろなことを言われますが、うちのフェリス様はとてもお優しい方で、私共は密かに自慢に思っております」
「本当です。奉公に出た男爵のうちで手籠めにされかけて泣きながら逃げたって子もいるそうなんですよ」
「え。それは、犯罪として立証せねば…」
朝から女子との推し話に喜んでたレティシアは、びっくりな話をリタから聞いて、やや目が覚める。
「ええ。ディアナではそういうことは少ないんですけど、おかしな殿方って、いますからね、やはり…。私なんて、うちのフェリス様が、いつの日か、
人間に恋をなさることはあるのかしら、てこちらで呑気に暮らしてましたけど」
御鏡の前に、レティシア様、髪を梳かしましょうと促して、リタが優しい手で髪を梳かしてくれる。
「人間にって……、フェリス様、あんなにお美しいのに」
「そうですねぇ……、フェリス様は天にある月のような方、誰にも手に入らない憧れ、とディアナの社交界では言われてます。ですので、ディアナのどんなご令嬢も御婦人も、きっと心ひそかにレティシア様のことを羨ましく思ってらっしゃいますよ」
「いつの世も、女性の目は厳しいもの。レティシア様の正式なお披露目となる結婚式まで、まだ暫く時がありますから、私共はりきってレティシア様を磨き上げて差し上げねば。きっと、皆がフェリス様の花嫁を一目見たがりますからね」
「…それは…気が…遠くなりますね…」
「は。すみません。余計なお喋りが過ぎましたね。どうか、怯えないで下さいね。何といっても、フェリス様がレティシア様を選ばれたのですから」
うう。
そこ、フェリス様の意志で、レティシアを選んだ訳ではないと思うけど。
(それなのに、充分、よくして頂いてるけど)
推しのフェリス様が人気なのは嬉しいけど、ちび花嫁としては、それはなかなか、責任重大に感じるなあ……。
そんな人気者の王弟殿下との結婚とは、ぜんぜん予想してなかった……。
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