第59話 薔薇の花の咲く宮で
フェリス様に、我儘になって下さい、なんてお奨めしたけど、レティシアもちょっと我儘になってる気がする……。
国許にいたときは、お父様もお母さまもいなくなって、もう何もレティシアの希望を聞いてくれる人はいなくなったから、誰にも、何も望んでなかったのに。
どうして昨日初めてあったばかりのフェリス様に、いろんなこと、言っちゃってるんだろう……。
いくら結婚するからって、甘え過ぎだ……、フェリス様に呆れられない様にしなきゃ……。
(努力するよ。できるだけ、レティシアより、早く死なない)
あれは、大事な人を失うことを知っている瞳だった。
愛する者とともに、身体の何処か一部を一緒に天に持って行かれてしまったような、あの痛みを知ってる瞳。
フェリス様も、お母様を早く亡くされたと……。
「う……ん」
くまちゃん、ふわふわ。
ベッドも、ふわふわ。
気持ちいい……。
でも、もう、きっと朝だから、そろそろ、起きるー……。
「おはようございます、レティシア様」
「おはよう、ございま…」
サキとリタが代わる代わる、時には一緒に、レティシアのところへ来てくれる。
リタは若くて可愛らしいし、サキは年配で母親のような安心感がある。
「お疲れではございませんか? フェリス様が、レティシア様は慣れないことが多くて大変だろうから、ゆっくり寝ていてもいいとお伝えするようにと」
「大丈夫です。フェリス様の宮に来てから、なんだか凄くよく眠れて、体調がいいのです」
くまちゃんのおかげなのか、フェリス様のおかげなのか。
「まあ、それはようございました。きっと、フェリス様とお逢いできて、安心されたのですね。それに、こちらの宮では何も特別なことはしてないのですが、庭園の花などもよく咲いて、他の宮の方から羨ましがられるのですよ」
「わかります。王宮で、ここの薔薇が一番綺麗ですもんね」
嬉しそうなサキの説明に、うんうん、とレティシアが頷く。
フェリス様が自分の宮の花の世話をする訳ではないだろうけど、その人の庭に植えると、同じ植物のはずなのに、めきめき生き物が成長する人っているよね。
土の問題や、手入れの問題だけでもなさそうな、ちょっと不思議な現象。
あれも一種の魔法なのかなあ…。
「フェリス様は、うちの庭師は優秀なんだろうね、て仰るんですけど、庭の花まで王弟殿下に恋をする、て歌われてます」
「居心地のいい宮なのは、ご当主のフェリス様とそこで働く方々、きっと双方が素晴らしいのだと思います」
それはやっぱり、どちらも大事なことだと思う。
レティシアの宮なんて、両親が天に召されてから、レティシアが落ち込み過ぎて、真っ暗になってしまった。幼少の身で立ち直れなかったとはいえ、仕えてくれてた人たちにも申し訳なかった…。
「まあ、本当に。うちの花嫁様が可愛すぎてどうしましょう、リタ」
「ですね! 人見知りのフェリス様が、花嫁様に馴染めるかどうか、皆で心配しておりましたが、レティシア様がいらしてから、フェリス様とても楽しそうです。 フェリス様があんなに笑ってるところ、昨日初めて拝見しました」
!?
サキさんが何かに感じ入ってるのが謎だけど、明るい声でリタが言うように、フェリス様が、ああー変な子が来たーって嫌がってなかったら嬉しいなー。
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