第57話 貌も、性質も、育ての親にも似るのかも知れない
フェリスが、五歳の時に、病で母が死んだ。
十歳のときに父王も死んだが、ステファン王の死は国王の死として、ディアナの哀しみとなったが、フェリスにとっては、母の死こそが、この世界の終わりのようだった。
逆に、父の死は、まるで他人事のようだった。
母が死んだときに、ステファン王が
「これからは、王妃マグダレーナが母のかわりを」
と言った時、いっそ僕も死んだ方がマシだ、と叫びたいのを耐えていた子供の自分を、フェリスは今も覚えている。
フェリスとマグダレーナ王妃は、絶望的に気性があわないのだが、気性があったところで、誰も死んだ母の代わりになどならない。
ステファン王は凄く悪人という訳ではないのだが、いろいろと他者の気持ちに無神経で、それが為に、マグダレーナ王太后もあんな風に拗れてしまった。
たまにだけど、王宮の孤児のフェリスにも、優しくしてくれる人はいた。
気紛れに心配してくれる貴族もいた。
でもそれは、母ではない。
母が死んだときに、フェリスにとっての家族は、いなくなったのだ。
父は王であって、フェリスの家族ではなかった。
兄のマリウスにとっては、また、違うかも知れないが……。
父と兄と義母は軋みつつも家族だったが、そこに異分子のフェリスが入れるはずもない。
無茶なことを強要されることを、義母が嫌がった気持ちも、フェリスにもわかる。
(フェリスはいい子ぶりすぎなんだよ。嫌なときは、ちゃんと嫌な顔したほうがいいぞ?)
明るい声で笑う、いたずらっ子のような竜の神様が話しかけてくれるまで、幼かったフェリスの精神は、王宮の片隅で、闇に落ちていく寸前にあった。
(フェリス様は、優しい方です)
「女の子に優しいなんて初めて言われたな……」
自分は優しい人間ではないので。優しくあるよう、気をつけてはいるのだが。
少しは他者に優しいところもレーヴェに似ればよかったのだが。
数年後、竜王陛下そっくりにフェリスが成長したので、あからさまに人々の接し方が変わった。
レーヴェがフェリスを育てたようなところがあるので、遠い遠い竜王陛下の遺伝子が、ゆっくりと血の底から揺り起こされてきたのか、あるいは何かの皮肉なのか、そこはわからない。
(私より先に死なないで下さい)
フェリスは少し大きくなって強くなった(いまもまだ弱いけれども)。
だから、今度はフェリスが、自分より、ちいさいレティシアを守ろうと思う。
昔、フェリスがしたような嫌な思いを、絶対に、レティシアにはさせまい。
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