第36話 竜王陛下の子孫たち
「フェリス。サリアからレティシア姫が到着したと聞いた」
現ディアナ国王マリウスは、御年二十七歳。
王太后からは何かと風当りの強いフェリスだが、兄との仲はそんなには悪くない。
というか、おっとりな兄君は、フェリス贔屓で、何かと、義母上の監視を逃れては、自慢の弟を呼び出したがる。その御心が有難いやら、困るやら、なのだ。
「はい。陛下」
「そなたには少し若すぎる姫君だと思うが…」
もっと似合いの年頃の姫を選んでやりたかったのに、国の為にすまぬ、と以前にも言われた。
フェリス自身は、十七歳になるというのに、それまで、結婚とか、恋とか、考えたこともなかった。
フェリスは、それこそ「まるで神代の竜王陛下の生まれ変わりのような」美貌と称えられて、物心つく頃には、いろんな方面から注目を浴びるようになった。
だけど、何も感じたことがない。
(残念な話だ……)
凄く綺麗な娘にも、艶めいた御婦人にも、何なら誘いをかけてくる男性にも。
誰にも、何も、感じたことがない。
どんな美しい娘にも心を動かさない『氷の美貌の王弟殿下』は、そういう意味では当たっている。
『愛しいアリシアの為に、この国を守る』をその通りに有言実行して、いまだにディアナのすべての女性の心に君臨するレーヴェ竜王陛下とは、その一番大事なところが、ちっとも似ていない、とフェリスは我ながら残念に思っていた。
でも、あの子……。
「レティシア姫は、とても可愛いらしい方ですよ。私にはもったいない程に」
孤独な瞳をしていた。
何にも期待していないような瞳で、フェリスを見上げていた。
自分に似てる、と思った。
秘密めいていて、いろいろと魂の具合が不安定で、何か達観したような瞳が。
「そ、そうか? 気が合いそうか?」
兄上は気の弱い、そして、気の優しい方だ。
昔から、義母上に恐れをなしつつ、こっそりフェリスをかまっていた。
フェリス自身もそうだが、なんで、あの竜王陛下の子孫で、こうなるんだろう?
向かうところ敵あらず的な、強気の竜の遺伝子は、長い年月で、あちこち散逸してるんだろうか? と疑問に思うくらい、いわゆる、ごく普通の、とても人の子らしい男性だ。
「はい。年齢が離れているので、何を話せばいいのか案じておりましたが、とても聡明な方で、話していて楽しいです」
五歳であの会話は、たぶん、聡明とかのレベルではないと思うけれど。
でも、あの子にも秘密があっても、それはお互い様というか…、そのくらいのほうがフェリスはむしろ気が楽だ。
「おお、そうか。余もそれを聞いて、大変嬉しい。余は、フェリスに幸せであってほしい」
「身に余るご厚情、大変有難く思います、陛下」
フェリスは、玉座の兄に向けて、騎士の礼をとった。
その姿は、周囲に控える者たちが、溜息を零すほどに美しかった。
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