第17話 シャンパンと薔薇水
「飲み物は? 紅茶は飲める? まだ早い? あたたかいミルクのほうがいい?」
「紅茶、飲めます」
子供扱いに、ぷくっとレティシアは頬を膨らました。
飲めるとも。何なら、日本で生きてた学生時代の夢は、ティーインストラクターとか、紅茶とケーキの店の女主人とか素敵だよねぇ、だったのだ。もちろん、そんなの、ただのふんわりした夢で。
現実は、死ぬまで、一介の社畜だった訳だが。
能力がなくて出来なかったというより、そんな勇気なかった。
普通にいい学校に行って、普通にいい会社に行って、誰かいい人と出会って結婚したかった。ごく普通の女の子の夢。
アイドルになりたいとか、世界的な発明をしたいとか、そんな壮大な夢は抱いたこともない。量産型?の一般人女子としての夢を見てた。
学校と会社までは、まあ真面目だったので可能だったが、最後の一つは縁がなかった。
あんなに若くして死ぬ予定だったんなら、もっとがんばって出会いを探すべきだった。
(いやでも、うんと頑張って若くして出会って結婚してても、二、三年とかで奥さんに死なれたら、相手の人可哀想すぎるね…)
そしたら、現世は、やたらと早く結婚の話が来た。
(嫁に行けなかった我が呪いだろうか…)
「じゃあ紅茶と、冷たいものは、シャンパン? 薔薇水?」
「それこそ、シャンパンはまだ早いと…」
五歳児にシャンパンとかポップだなあ、ディアナ王国。
「僕、五歳くらいから、飲んでた気がする」
「水よりシャンパンの方が安いと言われるディアナならではでしょうか?」
おもしろいけど、小さい子にお酒は害はないのかな?
「そうそう。そんなことも知ってるの、レティシア」
「少しだけ。どんなところなのかなあ、と本を読みました」
「賢いね。まだ人形遊びしか興味ない子がたくさんいるだろうに」
「いえ。どちらかというと、小さいのに、本ばかり読んで、気味が悪い子、と評判はあまり芳しくなく…」
とほほ、と言いたげに、レティシアは肩を落とす。
まあ、それは生まれ変わる前と変わらないというか…。
「そうかなあ。僕は、賢いお嫁さん、嬉しいけどね」
「女性は少し愚かに見えた方が、殿方に好かれます、殿方はあどけない姫を好みます、と礼儀作法の先生に窘められました」
「前時代の化石のようなマナー講師だな。そもそも、子供に嘘を教えてはいけない」
「そう思われます?」
「うん。僕が人見知りだから、世の中の男全部のことは到底知らないけど、
僕は賢い人と話す方が好きだよ。僕があまり賢くないから、いろいろ教えてもらえるし」
「とても聡明に見えます、フェリス様は」
「ほんとに? そんな優しいこと言ってくれるの、レティシアくらいだよ。
何なら、顔しか取り柄がないとか言われてるからね」
まあ、これだけ綺麗な人が頭もよかったら、他の人はいったいどうしたら?
というのはあるけど、少し話してるだけでも、お馬鹿さんにはとても思えない。
なんていうか、賢くて、ひどく落ち着いていて…、そう…、どこか…遠いような…、隙のない感じ。
「じゃあ、薔薇水と、ディアナの名品、シャンパンも一口だけ舐めてごらん。」
テーブルの上に、優雅に茶器や、グラスが並び、お茶の支度が整っていく。
遠くで鳥の声がする。
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