第15話 美しい壁の花

「薔薇が見事ですね。

 ずっとお庭、歩いてみたいな、て思ってたので、嬉しいです」


季節は春で。

花も鳥も草木も、春に浮かれているようだ。

レティシアも、庭園でのお茶と散策に誘って貰えて、ご機嫌だ。


「レティシアは、今夜から、私の宮で眠るんだろう?」

「はい。たぶん、そのはずです」


詳細は聞いてないが、王弟殿下の宮の一室を頂くのだと思う。


「では、我が宮の女官には、我が花嫁の自由を保障するように、よく伝言しておこう。散策も、お茶も、花でも衣装でも装身具も、レティシアが欲しいものはちゃんと望んだらいいからね。私は影の薄い地味めな王族だが、小さな妃の暮らしを不自由させない程度の財産はあるはずだから」


「影の薄い……地味な……?」


人生で出会ったなかで、もっとも派手な顔の王子様が、真面目な顔で冗談を言っている。


「そう。いつも、誰かに虐められないように、壁際に隠れてるんだよ」


悪戯っぽくフェリスが言う。


「それは…、ずいぶん、壁が華やかになりそうですね」


 なんて目立つ生きた壁画だ。


「はい。いつも、壁に、令嬢方が並んで、次のダンス待ちの列ができますよ」


 絶妙な感覚でレイが横からあいの手を入れてくれる。


「レイ。私の可愛い花嫁に浮ついた男に思われるだろう」


「でも、その方がよほど想像できます。きっとフェリス様と踊りたい可愛い方がたくさんいるだろうと」


ああ!

ちょっとミステリアスな、モテモテの美男の王弟殿下!

いいなあ!

どうせ生まれ変わるなら、雪も、男の子になって、モテてみたり、勇者になってみたりも、楽しかったかも? 


「こらこら、そこは喜んでないで、妬いてくれなきゃ、我が妃よ」


微笑してとがめる婿殿と、背景の白薔薇がなんと似合うことかと。

フェリス様、普通に、輝く太陽と薔薇を背負っていらっしゃる。


「は。すみません。至らず」


だって、ヤキモチなんて、そんな俄かに起こるはずもない。

今日初めて逢った人だし。


現世上は十歳年上、過去世ならば十歳年下。

頑張っても、自慢の美貌の兄か、弟が、やたらとモテてて嬉しいぐらいの感覚だ。


「舞踏会のフェリス様、とっても、絵になるだろうなあ、て…」


「おかしな、可愛いレティシア。じゃあ、うんと着飾って、一緒に出よう、舞踏会」


「え……」


それはどうだろう。

レティシアもこの華やかな王子殿下と一緒に出るのは、なかなかにいろいろ言われそうな気がするが。

とはいえ、うんと着飾った婿殿はちょっと見たい。


「大丈夫。誰にも、私の花嫁に、文句など言わせないから」

「あ、ありがとうございます…」


うん。やっぱり。

いろいろ言われるだろうなーとは、婿殿も思うよね。

この組み合わせだし。

でも、美貌の婿殿は、微笑んでても、なんか強そうだ。


(異様に、迫力がある…)


レティシアも、優しい彼にあまり恥をかかせぬように、いろいろ頑張ろう。




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