第14話 いままでの人生で出逢った中で、婿殿は一番



「フェリス様は私がいままで見た殿方の中で最も美しく、そして、とてもお優しい御方です」


 レティシアはいま思ったことを、素直に言ってみた。


「………」


 フェリスがちょっと驚いている。


 本当に綺麗な御顔だなあ、と思う。

 驚いた表情も、さっきの、何故、小さな、心細い姫に愛馬くらい帯同させてやらぬのだ、と機嫌を損ねた顔すらも美しい。

 男の人というか、 現世の五歳のレティシアも、二十七年生きた日本の雪も、女の人でも、こんな綺麗な人、見たことがない。


 人間、顔ではない。

 とは言うものの、 これくらい綺麗だと、一種の芸術作品の域だ。

 神という名の匠が刻んだ美しい造形。


「前半はまあまあ言われるが、そうそう優しいとは言われぬぞ、私は」


 おお。

 やはり、いままで逢った人の中で一番美しい、は、よく言われるんですねと、妙なことに、感心してしまう。


「そうですか? フェリス様は、とてもお優しいと思います。私の気持ちを聞いて下さる方なんて、いまも昔も、そうそういませんでした。ましてや、王弟殿下のようなお生まれの方で、相手の気持ちを尋ねる方など、そうそういないかと…」


「ねぇ、レティシア」

「は、は、はい?」


 知る限り、この世で最も美しい顔が、ぎょっとするほど、近づいてくる。


「…昔って? 五歳の人生で、昔ってどのくらい昔なの?」

「あああ、あの、それは…」


 べつだん、何か糾弾されてるわけではなく、楽しそうにフェリスは尋ねている。


「ね、どのくらい?」

「え、えっと…二歳か、三歳くらい…?」


 まさか、こことは別の世界での、二十七年の地味目の人生で、とは言えない。


 とっても綺麗に微笑んで尋ねられるので、誤魔化そうとレティシアも微笑む。

 やや引き攣りつつ、笑顔。

 こ、困る。


 慣れない美形に困るのと、そんなの説明しようもないし。

 本当のことを言ったところで、信じてもらえると思えないし。

 レティシアだって、他人の話なら、夢でも見たのでは? と思うだろう。


「……お二人とも、楽しそうなところ、お邪魔して申し訳ありませんが、

お茶の支度が出来たようですよ」


「…無粋な男だな、レイ」


「申し訳ありません、私の主人に似て、私は細やかな情緒にやや疎く…」


「いやいや僕のせいにするな」


 困ってる。


 いろいろ困ってる。

 婿殿が美形すぎたり、優しすぎたり、主従漫才が面白すぎたり。

 でも、楽しい。


 婿殿の極上の笑顔に釣られて微笑んでしまうくらいには、想定外に、

 初顔合わせは、とても楽しい。

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