第8話 映える
「レティシア? 僕はそのままで可愛らしいと思うんだが、姫としては、お茶用のドレスに着替えたい?」
「え。いえ、そんな、めんど……」
うぐぐ。
つい、そんな面倒な、このままでお願いしたいです、と言いかける。
いけないいけない。
自分で慌てて自分の口を押さえる。
小さい身ながらも、女子としては、姫君のドレスは可愛らしいと思う。
うだつのあがらない姫とはいっても、生前のおしゃれ上手とは程遠かった機能性重視の庶民女子(単にまあまあ他人様に不快でない真っ当に見える恰好なら何でもいい的な…)の雪からは考えられないような可愛らしいリボンとレースと絹のドレスに満ちた暮らしだ。
しかし、王族というのは、何故、行事ごとに、いちいち着替えるのだ。
せっかく一度袖を通した服に申し訳ないじゃないか。
せめて一日くらい最初のドレスと添い遂げるべき。
どれも可愛いドレスなんだから、そんなに替えなくても大丈夫だ、と思ってしまう。
「だよね。そのままでいいよ」
にこっと、フェリスが微笑う。
ゲームのキャラのイケメンも真っ青な、悪戯っぽい麗しの微笑だ。
もごもごと誤魔化したものの、面倒くさいは、たぶん伝わったな。
「僕達も儀礼礼装とか、めんどうだけど、女の子はもっと大変だよね、衣装替えは」
「フェリス様なら、一日に何度お着替えになっても、とってもお着替えの甲斐があると思います」
いけない。
だいぶ、ダブルスタンダード。
自分はめんどうだと思うのに、婿殿には、にこにこ薦めてしまった。
だって、この方なら、何度着替えても、さぞや見栄えがするだろうなあと…。
純粋に、観賞的欲求が…。
「そ? じゃ、今度、レティシアの為に、うんと着飾るよ。普段、めんどうだから怠けてるけど」
「楽しみです」
男性の衣装に興味を持ったことは、生前の雪時代も、いまのレティシアになってからも全くないが、婿殿はたいへんに絵心をそそる素材だ。
この世界にスマートフォンは生まれていないし、そんな言葉も流行ってないが、
生前の日本の言葉で言うなら、『映える』というやつだ。
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