第41話 イヤホン
41話 イヤホン
青のかけらを君に。葵が見たいと言っていた映画は所謂青春恋愛ものだ。高校二年生の主人公とヒロイン。二人は幼なじみで、一夏の出来事をきっかけにお互いを意識していくようになる。
なんともまあベタな設定だなと思いつつも、ヒロイン役を務める女優さんがうん百年に一人の美少女だとか言われるくらいに可愛い人だから、結構話題になっていたのを今でも覚えている。
(こういう映画って男女で見るの、結構普通のことなのか……?)
いや、そんなわけないか。自分で考えて自分で否定し結論が出てしまった。
恋愛映画以外ならあり得なくはないことだと思う。俺たちが幼なじみという身近な間柄なこともあり、一緒に行く相手がいないからと誘われることはまあおかしくないだろう。
しかしこれは流石に違うと分かる。こんなの、俺の常識から言わせれば意識している異性としか見に行きたいとはならない。実際に俺の場合葵となら見ようかなとなるけれど、中月となると別にそうでもないしな。
「イヤホンも持ってきた。大体一時間半くらいの映画だから、終わる頃にちょうどキャンプ場だな」
「そ、そうか。まあじゃあせっかくだし見る……か?」
「おうっ! じゃあ早速準備するからちょい待ってな」
ニカッ、と明るい笑顔を向けながら鞄の中を漁る葵。イヤホンまで持ってきているなんて用意周到だな。
映画か。何気に見るのは久しぶりかもしれない。というか恋愛ものはあまり見ないし、映画となると多分初めてだ。
そんなことを考えていると。葵はやがて鞄の中からお目当てのものを取り出すと、自慢げに見せてくる。
「てれててってて〜。いやほん〜」
「!? ちょ、それ使うのか!?」
「なにか変か?」
「いや、変ってことはないけど……」
そしてそれを見て、俺はギョッとする。
イヤホンと聞いて思い浮かべたのはワイヤレスのものだった。コードレスで耳栓のように付けるあれだ。あれなら片耳ずつ付けるだけで楽だし、二人で使うのにももってこい。
が、いざ見せられたのはまさかの有線タイプ。白の線にピンク色のイヤーピースが付いたまさにイヤホンといった感じのものだ。
これを二人で使うのか。それってかなり……
「へへっ。憧れだったんだ、これ。二人で片耳ずつ付けてさ。一緒に音楽聴いたり、動画見たりすんの」
「っ……そ、そうか。憧れ、か」
「一つ夢が叶ったぜぃ。えっと? イヤホンジャックは、っと……」
恥ずかしい、というか。いや嬉しいんだけども。コイツは一体何を思ってその夢を俺と叶えようとしているのか。
さ、流石にそういうことだと思っておいていいんだよな? これで俺のことガチでただの幼なじみとしか思ってなかったらもう女子のこと信じられなくなるぞ。
「よし、繋げた。ほい晴翔、片方」
「お、おぉ」
スッ、と片割れを渡され、右耳に装着しようとする。あまりイヤホンのコード自体長さも無いし、俺は今左側に座ってるからより近い耳につけるべきかと。
そう、思ったのも束の間。
「バカ、左耳に付けろよ。ほら……もっと近寄っていいから」
肩と肩が触れ合い、左手にスマホを持って更に距離を詰めてくる。葵はさも当然かのように右耳にイヤホンを付けていた。
「こっちの方が近くで見れる、し。あと右耳につけたら私と喋りづらいだろ?」
「そ、そう……だな」
人をドキドキさせる天才か。お前は。
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