第11話 幼なじみとして

11話 幼なじみとして



 昨日の、言葉。俺が葵にした告白。


 俺から葵に伝えた気持ちに嘘偽りなんて一つもない。俺は本当に葵が……葵のお尻が大好きで。恋をした。


 でも、その本音を伝えてフラれて。なのに葵は俺の包み隠さない気持ちをまだ聞いてくれるのか。


(やっぱりうわべだけの謝罪なんて……いらないな)


 俺が謝らなきゃいけないことは一つだけ。


「葵、俺はやっぱりお前のお尻が大好きだ。だから昨日の言葉に嘘は一つもない。ただの幼なじみじゃなくて恋人になりたいっていうのも本当なんだ」


「……うん」


「けど、ごめん。俺葵の気持ちを全然考えてなかった。俺のあの言葉は″お尻だけが好き″って言ってるのと同義なんだから。引っ叩かれて当然だよな」


 俺は多分、まだ告白すべきじゃなかった。


 葵のお尻が好きだ。大好きだ。けどそれだけじゃ、葵の全てを好きになれていない。そんなたった身体の一部分を好きだからと告白するのは間違っている。それこそ、部位こそ違うけれど「あなたの顔が好きだから付き合ってください」という最低な告白に相違ない。


 驕っていた。お尻を好きになっただけで葵の全てを好きになれたと。それだけで告白するには充分だと。ずっと隣にいてくれたコイツなら、きっと応えてくれると。


「俺、今から最低なこと言うと思う。……聞いてくれるか?」


「ああ、もちろん。お前と何年幼なじみやってると思ってんだ? 遠慮せずにさっさと言っちまえ」


 葵は肘をつきながら軽く微笑むと、そう言って。俺の目をまっすぐに見ながら言葉を待つ。


 俺は間違えた。たとえ相手が幼なじみだとしても超えてはいけない一線を超えた。


 だから────


「昨日の告白は、無かったことにしてくれ」


 葵がそれを許してくれるなら、俺はただの幼なじみに戻りたい。


 いつもみたいに一緒に登下校して、遊んで。たまにお互いの家に行ったりこうやって食事をしたり。そんな、昔からずっと続いているこの心地がいい関係に。


「返事をする前に一つだけ聞かせてくれ」


「っ……なん、だ?」


 ああ、やっぱり怒っているだろうか。


 葵に嘘をつきたくなくて、ありのままの気持ちを伝えた。でもこれはどう考えても最低な行為だ。一度好きだと言った相手に、やっぱりそれを無かったことにしてくれなんて。


「幼なじみに戻って。私たちの関係はずっと、そのままで続いていくのか? それとも、お前は……」


 ほんのりと、葵の耳が赤くなる。


 コイツの癖だ。何か恥ずかしいことがあったりすると、すぐに耳が赤くなる。だからきっと今も、自分のしている発言に対して相当な羞恥心を抱いていることだろう。


 怒らせて、恥ずかしがらせて。どれだけ最低な男なんだ、俺は。


 でも。そんな俺でも、その先だけは。絶対に言わせない。


「ずっと幼なじみってのは……無理だ。だからもう一度。俺がちゃんと葵の全部を好きになれたら、その時は……告白をやり直しても、いいか?」


「〜〜〜っっ!!」


 ぼふんっ。必死に兵制を装おうとしながらも、瞬間的に顔から溢れた熱が頭の上で爆発する。


 耳から顔全体まで。その全てを赤くして、わなわなと手を震わせながら。葵はゆっくりと頷いた。


「わ、分かっ……た。じゃあその、今日からはまた今まで通りって……ことで」


「本当か!? ありがとう葵!! 正直もう絶対に無理だと思ってた……」


「ば、バカかよ。私たちは幼なじみだぞ? そう簡単に離れられないっての」


「へ、へへっ。そっか。あー、安心したらなんかめっちゃ腹減ってきた! 俺にもピザ一切れくれよ!!」


「あ、ちょっ!? ったく、すぐ調子乗りやがって……ちょっと待てって。ちゃんと切り分けてやるから」


 こうして、俺たちはただの幼なじみに戻った。


 結局のところ葵は俺のことをどう思っているのだろう。ただの仲の良い幼なじみなのか、それとも。


 その答えが出るのはきっともっと先の話だ。俺が葵の全てを好きになって、告白をやり直すその時。少なくともその時までは知らなくていい。




────このままで。

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