第9話 お尻は努力を映す鏡
9話 お尻は努力を映す鏡
「ハンバーグプレート一つと、ドリア一つ。あとマルゲリータピザ一つに辛辛チキン三つ。んでセットドリンクバーお願いします」
「え? あっ……じゃあ俺はナポリタンとセットドリンクバーで」
「畏まりました。ドリンクバーの方セルフサービスとなっておりますので、あちら入り口手前にてお願い致します。では、少々お待ちください」
席に着き、しばらくメニュー表を眺めて。呼び出しボタンで店員さんを呼ぶと、葵は颯爽と横文字メニューを羅列した。
えっと……なんて言った? ハンバーグ、ドリア、ピザとチキンとドリンクバーだっけ? 凄いなコイツ。運動部時代からよく食う奴だとは知ってたけど。明らかに常人なら食いきれない量の注文だ。
「……今、どんだけ食べるんだって思ったろ」
「へっ!? ん、んなわけないだろ! その、よく食べるなぁって思っただけで……」
「ちょっとニュアンス違うだけじゃねえか」
そんなこと言ったって、なぁ。むしろそう思わない方がおかしいというか。
ハンバーグとドリア、くらいまでならまだ分かる。ハンバーグを頼むときは大体ライスを追加するわけだから、それがドリアに変わっただけのことだ。
だがそこにピザ一枚丸ごととチキンが三つも加わるとなれば充分大食いレベルだ。やっぱりバスケ現役時代に筋肉をつけるためとよく食べていた習慣がまだ残っているのだろうか。バスケを辞めた今、そのペースで食べ続けると危険な気もするけど。
「バスケは辞めたけど毎日運動はしてるっての。毎日朝と夜に三キロずつのランニング。今日だってちゃんと朝走って来てる」
「よ、夜もやってたのか!? 朝やってるのは知ってたけど……」
「バカ、現役時代にそんな事やったら身体ぶっ壊れるっての。引退してから増やしたんだよ。バスケ辞めた分の埋め合わせでな」
いや、いやいやいや。毎日計六キロランニングて。コイツ体力どんだけなんだ。流石中学時代女子バスケ部でエースを張っていただけはある。俺なら朝の三キロだけで足を攣ってその場で動けなくなる自信しかないな。
というか、どうりで……。運動部時代バスケユニフォーム越しに見ていたあのハリがありながらも丸い、かと言って垂れているわけではない理想的な形。さながら桃尻と呼ぶにふさわしいお尻が、中学三年生の夏に部活を引退してもう半年も経つ今でも全く崩れる事なくキープされているのには違和感を感じていた。
もちろんコイツ自身生まれつきお尻のポテンシャルはあったのだろうが、それだけじゃない。あのお尻はちゃんと努力によってキープされていたのだ。
大きすぎず、小さすぎず。確かな柔らかさを感じさせる丸みを帯びながらもしっかりと引き締まった、完璧なフォルム。その背景にキチンと努力が詰まっているのだと思うとどこか感慨深い。
やっぱり先天性の形の良さに頼るばかりで努力を怠る怠け尻と、そのポテンシャルを持っていながらも向上心を持ち続けて美しさに磨きをかけた美しい桃尻とでは根本的な部分で魅力に差が出てくる。流石だ葵。それでこそ俺が惚れたお尻の持ち主だ……。
(って、俺はまた何考えてんだ!? だぁもう、クッソ!! 反省しろやァァァッッ!!!)
思いっきり自分をビンタしてやりたくなる衝動に駆られながらも、いきなり葵の前でそんなことをしたら何事だと不審がられそうなのでグッと堪える。
駄目だ、これからお尻への告白の件を謝ろうとしているのに、俺は思っていたよりも頭の中をお尻に支配されてしまっているらしい。こんなんじゃ謝ってもすぐにボロが出て終わりだ。
お尻のことは考えないように。そう思えば思うほど、俺の中でお尻への感情が溢れ出て来て。葵への好きが止まらなくなる。こんなのじゃ駄目だと分かっているのに。
「そっ……か。やっぱり努力家なんだな、葵は。素直にかっこいいよ」
「っおえ!? そ、そそそそうか!? 別に褒められるようなことじゃねえよ。……へへっ」
俺は、どうすればいいんだ。
ここでただうわべだけの謝罪をするのが、本当に正解なのか?
それとも……
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