君のお尻に恋をした。
結城彩咲
第1話 幼なじみへの告白
1話 幼なじみへの告白
「な、なんだよ。話って……」
桜舞い散る春の空。雲一つ無い快晴の下、俺はそんな陽の当たらない体育館裏にいる。
高校一年生、春。それは入学式が終わってすぐのことだった。
「ごめんな、葵。急に呼び出して」
「いや、別にそれはいいんだけどよ。珍しいじゃねえか。晴翔からこんな、改まってなんて……」
彼女は白坂葵。俺、こと中之島晴翔の幼なじみである。
青い短髪を靡かせ、どこか落ち着かない様子でくるくると指に毛先を絡ませる彼女こそ、俺の初恋の相手。そして今、まさにその想いを伝えようとしている瞬間だ。
高校の体育館裏。そんなベタな場所に男子から呼び出されたのだ。きっと葵も薄々感じとっているのだろう。これから、自分は告白されるのだと。
「葵。お前とは昔からずっと一緒だったけどさ。なんというかこう……女子ってよりは、友達だった。異性としては本当、これっぽっちも見てなくてさ。ただ一緒にいると楽しい。それだけだったんだ」
「う、うん。知ってるよ。アンタは昔からずっと、そういう奴だった」
葵の性格もあってだろうか。男勝りで、口調も決して女の子らしいとは言い難い。だからどうしてもコイツとは異性という接し方をするよりも、隣で男友達のようにしている方が心地よくて。
けど、今はもう違う。
一度気持ちを自覚してからは、ずっとそれが心の中で大きくなっていくばかり。今ではもう、隣に立つことはおろか、近くにいるだけでずっと意識してしまう。
きっとこれが。これこそが────
「だけどな、葵。俺はもう、お前をただの友達としては見れない。もちろん幼なじみっていうのはある意味元々ただの友達じゃないのかもしれないけど。そういうことじゃなくてさ。……一人の女の子として、お前のことが特別になってるんだ」
「っっう!? あ、うぅっ!?」
かあぁっ。みるみるうちに葵の頬が真っ赤に染まり、その紅潮は耳まで伝染していく。
毛先を弄る手はフリーズし、挙動不審になりながら俺を見つめていた。もじもじと左右に少しだけ揺れているところもやっぱり可愛い。
「だから、お前にこの想いを伝えたくてこんな場所に呼んだ。葵と、これまで以上の関係になりたくて。こんな俺の言葉を、聞いてくれるか?」
「……うん」
小さく深呼吸をした。緊張で少し乱れていた呼吸が整い、頭が冴えていく。
この告白が成功するかどうかは分からない。俺には未来を見ることはできないし、絶対に成功すると言い切れるほど自分に自信があるわけでもない。
信じられるのは、これまでの行いと経験だけ。葵と築き上げてきたこれまでの日々はきっと、この一瞬に繋がっている。
情けないところもたくさん見せてきた。男として、人より劣っているところも沢山あると思う。それでも俺は、そんな俺を……葵に、好きになってもらいたい。
だから目と目を合わせ、正直な言葉をぶつけるのだ。心の奥底にある本音を、ありのままに。これで失敗しても後悔はないと。そう、言い切れるように。
「俺はお前が……お前のお尻が大好きだ!! だから俺と、付き合ってくれ!!!」
「………………は?」
────俺は、君のお尻に恋をした。
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