アンノウン・フラグメンツ
貴宮アージェ
アウターワールド・ピース:異世界の断片
黒鳥は宙(ソラ)を舞う
・真実と虚構
“教授(プロフェッサー)”:【コード『H(エイチ)』】もしくは【“黒い鳥(ブラックバード)”】と呼ばれているその機体の本当の名を教えよう
黒きAD(アイアン・ドレッド)【アキオニクス】から淡々と声がこちらに届かせる。
“教授”:その機体・・・・・機体シリーズの真名は【フッケバイン】という
マリィ:―――フッケバイン。
“教授”:かつて世界で起こった【軌道大戦】。それを終結させるべく、ある企業組織が開発製造した決戦兵器たるAD。災いを呼び、災いを終わらせたという幻想に謳う凶鳥から捉えた名を持つ機体がそれだ。カラーリングと鳥を彷彿とさせる意匠、そしてフッケバインの名は投入と同時に瞬く間に戦いを終わらせた。―――人々に恐怖を植え付けてな。
マリィ:「どういうこと?」
“教授”:キミたちも歴史の勉学で聞いた憶えぐらいはあるだろう。衛星軌道上に存在したオービタルリングが地表へと崩落した【カラミティフォール】。その要因となったのがフッケバインだ。
その場の一同:《!?》
“教授”:たった数体のADによってかつてのオービタルリングは破壊され、地表はその再生に数百年もの刻を有する必要性を生じた災厄。“アイアンドレッド(鉄の恐怖)”という鉄の骸のアーキタイプとなったその駆体はまさしく伝説と呼ぶに相応しい存在なのだよ
マリィ:そんなことをなぜアナタは知っているの・・・・・
その言葉に“彼の者”はフッ、と笑みを零しながら疑問に答える。
“教授”:ワタシがその生き証人、と言ったら信じるかね?
レイヴン:ンだとぉ!?
ハルトマン:まさか、人間の肉体の組織構造的に幾ら延命処置を施したからと言って長く保つはずがない!コールドスリープしていたと言っても【カラミティフォール】の影響を考慮しても長期間の技術保持が出来ているとは思えない!!
“教授”:その通りだ。【カラミティフォール】による文明のダメージは決して看過できるものではなく、コールドスリープの様な長期間の肉体保存技術は停滞を余儀なくされた。しかし、だからと技術そのものが衰退をしていた訳ではなく、様々な技術を急速的に発展させる為に残されたものを有効的に活用させた。その中でナノマシン技術や量子技術を用いた肉体の変換を行われた。肉体をその都度作り直し、量子の海にその意志を定着させ、有事に応じて精製と破棄を繰り返してきた。人間の器そのものの延命を放棄し、使命を終える度に古き器を棄て、新しき器へ移っていった。
レイヴン:つまり・・・・・どういうこった?
ハルトマン:つまりは肉体的な老化ないしは生命活動が停止したとしても新たな身体を精製しているということです。もっと砕けた印象で言えばバックアップデータをダウンロードして3Dプリンターで出力したものみたいなモンですよ!
レイヴン:わかるような・・・・・わからんような・・・・・
バックアップ:要は肉体そのものに縛られず、魂―――人格をデータに変換して肉体が損失しても新しい身体にそのデータを移してたって訳か
ハルトマン:おそらく・・・・・無論、本体ともいえるデータバンクは必要だと思いますけども
教授:その通りだ。
ハルトマンの言葉に黒い機体は返答する。
“教授”:人格ないし意識データはこの機体に集約。肉体に致命的な損傷を受けた場合、その身体を破棄し、即座に新たな身体へと移り変え、活動を再開する。ワタシの場合はそれだがワタシ以外のメンバーはシステムの都合上、もう一つの身体であるADが本体にせざるを得ないがな。仮面を被る様に我々はニンゲンのくびきから離れ、ヒトとは違う道を歩む選択をした。例え、その道が誤りであろうと我らの目的を成す為に我らは“かつての自分”を棄てたのだ。
その言葉にマリィは胸に抱いた言葉を口に出す。
マリィ:それが人類の敵たる【仮面を纏いし者たち(ガグンラーズ)】。アナタたちの“生き方”
“教授”:今ではワタシ独りだがね―――――
表情は伺えないが“教授”の声色にはどこか物寂しさを感じさせた。
“戦争狂い(ウォーモンガー)”
“記録係(レコーダー)”
“仕立て人(コーディネーター)”
“壊し屋(デヴァステーター)”
“鉄の乙女(アイアンメイデン)”
“教授”の思想に共感し、彼の目的に付き合った同胞ないしは友人とも言えた“人間を棄て、人間を越えた”存在。
だが既に彼らはいない。
彼ら5人は“教授”の成すべきことが叶うことを願い、それぞれの戦場に散っていった。
人類の敵という役割を担ってでも過ちを乗り越え、新たな道筋を人類が見出せる様にする為に・・・
“戦争狂い”:(これだからドキドキワクワクが止まらないんだよナァ、人生ってモンはサァ!!!!)
かつて“戦争狂い”がそう言っていたことを思い出した。
その言葉に思わず彼は笑みを浮かべる。
“教授”:ワタシの中にもまだ“ニンゲン”としての情は残っていた様だな―――
感傷的なセリフを独り呟きながら“教授”は自身のもう一つの身体でもある機体のリミッターを解除する。
黒い機体の展開した装甲フレーム部分から黒ずんだ紅い粒子光が漏れ出していく。
変形した装甲は翼の様になり、一部の粒子光はまるで羽の様に変形した装甲からも流出していた。
マリィ:あれは・・・・・!?
“教授”:ワタシの【アキオニクス】はキミの操るフッケバインと同系統の機体。しかし、系列番号はキミのよりも旧いと思うがね。だがスペックとしての問題はともかく機体そのものであるワタシと生身を介して動かすキミではその差はどうなのかは―――理解しているね?そして同系統ということはこういう芸当も可能だということだ。
抑揚のない冷淡な感情なき声でそういう“教授”に一同は息を呑む。
ただ1人を除いて・・・
ヨル:――――――――――――。
ただただ自分と同じ黒いカラーリングの機体を見やり、睨む。
無言ではあるもののその顔には怒りとも言える表情を浮かべているのだけはわかる。
そんな感情の矛先を向ける猟兵(イエーガー)に“教授”は冷徹な雰囲気を崩さなかった。
“教授”:ワタシが気にいらないかね?無理もあるまい。その機体とリンクしているならばこの機体が、いや“ワタシの恐ろしさ”を理解しているはずだ。それでもなお、その感情をワタシに向けているということは。
それから先を彼は言わなかった。
言おうと矢先に言葉を遮る様に相対したもう一対の黒鳥が発砲したからだ。
だがその射撃は“教授”には当たらず、かすりもしないまま通り過ぎる。
威嚇、というよりも“黙れ”という意味合いの強い射撃だ。
その行為に“教授”は不敵に笑みを漏らす。
“教授”:では始めるとしよう、最新の凶鳥よ。キミたちの求むキミたちの答え。その行方末を見届ける為に最後の試験を始めよう!
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